2023年6月28日水曜日

ファイザー社の発表に関連するQ&A

みなさんこんばんは。CFOの野村です。


月曜日のファイザー社のLotiglipronに関する発表以降、多くのお問い合わせをいただきありがとうございます。回答が遅れている皆様には恐縮です。重複する質問も多くありましたので、10個の主な質問を本ブログで回答させていただきます。

創薬には困難な局面が多くあります。しかし、最後の田村のコメントにもあるように、それを乗り越えることで、結果的により強い企業ができると確信しています。我々は歩みを止めず、世界の患者さんのために事業をより加速させます。今後とも、どうぞよろしくお願いします!


●Lotiglipronの今後の開発方針について

Q1:       Lotiglipronの権利をファイザーから再取得し、新たなパートナーに再導出できる可能性はあるのか?リリース内での「過去のプログラムと同様」「今後の開発の可能性も含めた検討」というコメントは何を指しているのか?

A1: データ次第ですが、現時点で我々としてはLotiglipronの権利の再取得と再導出の可能性を含めて検討を行っており、ご指摘のリリース内のコメントはいずれも、過去に当社が権利を再取得後に他社に再導出し(参考:ムスカリン作動薬再導出/P8)、その後、開発を進めている開発品を意識したものです。現在、フェーズ2試験中のM4作動薬を含め、我々は過去に権利の再取得と再導出を複数回経験しておりますが、これは基本的に、創薬提携を含む全ての提携に「塩漬け防止条項」(開発停止の際に、化合物や関連知財についてパートナーが作成したものも含めて返還を請求できるオプション)を設定しているためです(参考:決算説明会Q&A/QA5)。一方で、権利再取得には現在の臨床データの精査はもとより、関連知財の整理や各種契約上のトリガーが引かれることが一般的に必要であり、現時点では不透明性が高い点はご理解ください。


Q2:       Lotiglipronはファイザー社が作成した化合物なので返還されないという理解でよいか?

A2: 個別の契約へのコメントは差し控えますが、A1の通り一般的には、塩漬け防止条項において化合物や関連知財の作成者と返還は関係ありません。


Q3:       Danuglipronが失敗した場合、Lotiglipronが再度、開発品として選ばれる可能性はあるのか?

A3: ファイザー社次第ではあるものの、一般的に見て可能性はかなり低いと考えられます。仮にそれが検討される場合には、Danuglipronの失敗の時のデータ、Lotiglipronが今回中止された際のデータが重要になると思われます

 


●今後の全社戦略について

Q4:       Lotiglipronの開発が中止になったことで、会社としての戦略や方向性に変化はあるか?

A4: 会社としての戦略や方向性について変更はありません。本決算時にもご説明した通り(参考)、以下の目標について積極的に事業を進めていく予定であり、今後、これらの進捗を報告できることを楽しみにしています。

  1. GPCRのプラットフォームのさらなる強化
  2. 新たなパートナーとの価値の高い提携
  3. フェーズ1b/2a段階までの自社での開発の実施
  4.  日本市場に向けた開発品の獲得と自社品の開発
  5. 1)~5)を加速しうる、戦略的なMAの実施


Q5:       本件によって、転換社債の償還リスクが高まることが考えられるが、対策は考えているか?

A5: 現時点では特段の対策は考えておりません。当社は20231Q末時点で660億円超の現預金を保有しており、仮に早期返済のオプションが行使可能となる20247月以降に償還を求められるケースにおいても、財務上の問題は発生しません。

 

その他

Q6:       株価対策として、40以上ある他の開発中パイプラインの進捗状況を積極的に紹介出来ないか?

A6: アーリーすぎるプログラムの進捗開示は、今のところ考えておりません。これは、アーリーすぎるプログラムの成功率は高くない点、また、プログラムの競争優位性を担保するためです。過去のQ&Aにより詳細な理由も記載していますので、こちらもご覧いただければと思います。(参考1QA19参考2QA63


Q7:       自社開発パイプラインで上期中の臨床入りの予定についてはどうなったのか?

A7: 進捗を発表できておらず恐縮ですが、順調に進展しています。業界の通例に従い、最初の被験者への投与が行われたタイミングで、皆様に進捗をご案内できればと思っています。 


Q8:       カンファレンスで良好な進捗を発表した直後の中止には、何か特別な背景があるのか?御社は事前に知らさされていなかったのか?

A8: カンファレンスも含めファイザー社の決定ですので、申し訳ないですが我々からのコメントは控えさせていただきます。当社にも事前の通知はありませんでした。ファイザー社との提携は2015年に始まった、基礎の創薬段階に焦点を絞ったものです。基礎段階においては勿論、密なやり取りがありましたが、数年前に当社の担当部分が終了して以降は定期的な報告を受けるに留まっています。これは業界では一般的です。反面、例えばニューロクライン社との提携は臨床試験も提携のスコープに入っていますので、前臨床・臨床段階においても密な連携を取っています。結局、提携先ごとに提携の範囲を踏まえたコミュニケーションを取ることになります。


Q9:       社内の雰囲気はどうか?

A9: 内心は残念に思うメンバーもいると思いますが、特に雰囲気の変化はありません。ファイザー社のプロジェクトは当社の手を離れて久しいため、実際の業務には影響が全くないことが大きいと思います。社員一同、より目の前のプロジェクトに向き合い、その価値を高めていくことに集中していきます


Q10:       田村会長は本件について何かコメントしているか?

A10: 外部向けではありませんが、「当社が世界的なリーディングバイオ企業になるタイミングがやや遅れる可能性はあるが、より厳しい状況を生き抜くことで、中長期では強く団結したチームが事業をより飛躍させると確信している。偉大な企業を築くのに、簡単な道はない。」とコメントしています。

2023年6月27日火曜日

ファイザー社の発表について

みなさんおはようございます。CFOの野村です。

日本時間の昨晩に、当社提携先のファイザー社が、自社オリジンのDanuglipronの開発を優先させ、当社との提携から生まれたLotiglipron(GLP-1作動薬/PF-07081532)の開発を中止することを発表しました。ファイザー社のリリースはこちら、当社のリリースはこちらをご覧ください。Lotiglipronに関するポイントは以下の通りです。


  • 薬物相互作用試験の薬物動態データとトランスアミナーゼ(AST/ALT:肝臓の検査値)の上昇が中止の要因。どの程度の上昇だったかなどの詳細は非開示
  • 一方で、Lotiglipron投与者の中で、肝臓関連の症状や副作用が出た方、肝不全になった方、治療が必要となった方などは、いずれもいなかった
  • 当社は、これまでに似た状況にあった他のプログラム/パートナーと同様、今後の開発の可能性検討を含めた、あらゆる協議を行っていく予定
  • Lotiglipronに関する一連の試験データは、今後、学会あるいは論文を通じて公表される見込み
  • Lotiglipronは当社のStaR技術を活用し、ファイザー社が生み出した化合物


我々にとっても青天の霹靂でしたが、まずはこれまでにファイザー社が集めたデータを元に、今後の開発方針について速やかに協議を開始したいと思います。ファイザー社の株価はLotiglipronの中止を受けて26日に約3.7%下落しました。ファイザーの投資家にとっても期待が高く、また想定外のニュースだったとみられます。

創薬は一筋縄ではいきません。残念ながら、期待通り開発が進まないこともあります。しかし、我々には約40本の進行中のプログラムがあり、Lotiglipronは期待の高いプログラムではありますが、我々にとっては40本の中の1つでしかありません。来年には、統合失調症に対するM4作動薬(NBI-1117568)のフェーズ2試験も完了する見込みであり、こちらは現在、順調に試験が進行中です。

我々はこれからも、我々は日本発の国際的なリーディングバイオ医薬品企業になることを目指し、困難を乗り越えて歩みを加速させていきます。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!

2023年6月16日金曜日

カンファレンスでの発表

みなさんおはようございます。CFOの野村です。

ゴールドマンサックス証券のヘルスケアカンファレンスが6/12~6/15(現地時間)に開催され、当社の提携先であるファイザー社(GLP-1作動薬)、ニューロクライン社(M4作動薬)からそれぞれ発表がありましたので、簡単ですが紹介させてください。


ファイザー社参考:トランスクリプト

13日に発表があり、目新しい情報は多くありませんでしたが、引き続き順調な開発進捗が見て取れる内容でした。当社との提携から生まれたLotiglipron(GLP-1作動薬/PF-07081532)については、既に予定より早めに投与が完了していましたが(参考)、年末までにデータが分かることがファイザー社のコメントでも再確認されました。尚、以下に出てくるDanuglipronはファイザー社が元々開発していた、当社との提携とは関係のないGLP-1作動薬ですが、1日1回投与でよい競合他社の経口薬やLotiglipronと違い、1日2回投与する必要があります。

【主なコメント】

  • Lotiglipronについては今年の年末まで、Danuglipronは来年の早い段階にデータが分かると期待している"lotiglipron, we hope to have data by the end of this year and then danuglipron by early next year"
  • Danuglipronが一日2回投与なのに対し、Lotiglipronは一日1回投与なのが最も大きな違いSo the main differences, at a very high level, danuglipron is given twice a day, lotiglipron is given once a day.”)
  • (現在のフェーズ2b試験では)月ベースでの用量の段階的増加(タイトレーション)を行っており、Phase3試験に進むのに適切な適切な投与量・投与スケジュールを見極める"now are looking at monthly titration and ultimately to pick the right dosing schedule to move forward to the Phase 3s"
  • (GLP-1作動薬は)全体で900億ドルの市場だと予想しているが、より大きいと予想するアナリストもいる。市場調査からは、注射より経口が好まれている"we did put out there that it was $90 billion market, and even some analysts since then have gone even higher ~(中略)~ We do know from market research, for example, that many people would prefer an oral versus an injectable."

なお、今回は用量の段階的増加(タイトレーション)についても、比較的多くコメントがありました。詳細は省きますが、これはGLP-1作動薬では避けられない副作用(吐き気)を抑えるためのものです。Lotiglipronのフェーズ1b試験でも、他製品と同等程度の副作用が確認されていましたが、現在のフェーズ2b試験のデザインでこれをどのくらい減らせるかも楽しみですね



ニューロクライン社

15日に発表があり、当社からライセンスしているムスカリン作動薬シリーズ全体、特にM4作動薬についてポジティブなコメントが多くありました。M4作動薬は、現在行われているフェーズ2b試験がとても順調に進んでおり、従来の予定(データベース上では来年12月)よりも早く終了するようです。今後の続報を期待しながら待ちたいと思います。

【主なコメント】

  • (M4作動薬について)現在のフェーズ2b試験は非常にうまく進んでおり、医療関係者からも非常に高い期待の声が寄せられている"going extremely well in a Phase 2b study that we have ongoing right now ~(中略)~ enthusiasm for this molecule out in the clinical community has been very good"
  • そのためこのペースでいけば、来年のより早い時期にデータが判明すると期待しているSo I'm hoping that with if enrollment stays the way that it has been, we're going to be able to pull that data readout sooner next year.”)
  • (M4作動薬について)競合であるKaruna社やCerevel社よりも、より特異性が高いといった特徴を持つ"That's different from Cerevel. It's highly specific. That's different from Karuna."

ニューロクライン社もコメントしている通り、M4作動薬の開発進捗が順調なのは医療関係者からの高い評価が背景にあるようです。これは、試験のスケジュールが早まるだけではなく、将来的な競合環境を考えてもとても心強いことです。何より、実際に患者さまに向き合われているドクターの方に期待頂ける、それだけのサイエンスのバックグラウンドがあるというのは、創薬に携わる者としては何にも代えがたい喜びですね。


今後とも、どうぞよろしくお願いします!



【開発品表(臨床段階のもの)】
パートナー開発コード作用メカニズム対象疾患開発段階試験番号人数開始終了ステータス主な対象・目的
ファイザー社PF-07081532GLP-1作動薬糖尿病/肥満フェーズ1aNCT041482092219年11月20年3月完了健常人
フェーズ1bNCT043055876620年3月21年7月完了患者
フェーズ1bNCT051582443421年12月22年6月完了患者
フェーズ2bNCT0557997790022年10月23年11月観察中患者
フェーズ1NCT054786032422年8月23年5月完了その他(肝機能障害)
フェーズ1NCT055102453222年8月23年10月組入中その他(腎機能障害)
フェーズ1NCT05652647622年12月23年3月完了その他(薬物動態)
フェーズ1NCT056716533223年1月23年11月観察中その他(薬物相互作用)
フェーズ1NCT056778672023年1月23年3月完了その他(剤形)
フェーズ1NCT057457011623年2月23年5月組入中その他(薬物相互作用)
フェーズ1NCT057883282423年3月23年9月組入中その他(薬物相互作用)
PF-07054894CCR6拮抗薬炎症性腸疾患フェーズ1aNCT043888788420年7月22年6月完了健常人
フェーズ1bNCT055493232722年11月24年10月組入中患者
PF-07258669MC4拮抗薬拒食症フェーズ1aNCT046287932921年3月21年8月完了健常人
フェーズ1aNCT0511394015021年11月23年8月組入中健常人
ニューロクライン社NBI-1117568M4作動薬統合失調症フェーズ1aNCT0324422812017年8月19年9月完了健常人
フェーズ2NCT0554511121322年10月24年12月組入中患者
フェーズ1NCT049353201521年7月21年10月完了その他(剤形)
フェーズ1NCT048492861618年9月18年12月完了その他(薬物動態)
TemperoBio社TMP-301mGlu5 NAM物質使用障害フェーズ1aNCT037850547118年11月21年3月完了健常人
フェーズ1NCT04462263820年6月21年6月完了その他(薬物動態)
※ブルーが主な臨床試験
※Recruiting:組入中、Active, not recruiting:観察中、Completed:完了、として表記
※その時点で公的なデータベースに登録されているもののみを記載