みなさんおはようございます、IR&コーポレートストラテジー部長の田原です。
昨日のリリースの通り、ニューロクライン社が開発するM4作動薬(NBI-1117568)のP2試験で良好な結果が確認されました。ポイントは以下です。
- 20mgの投与量で主要評価項目を達成し、総PANSS、陰性、陽性のいずれのスコアも統計的に有意に改善した(総PANSSスコアの改善でp=0.011)
- 副作用は狙い通り少なく、加えて1日1回の経口投与で効果が見られたことで、競合に対して強い競争力となる可能性がある
- 用量依存性(薬を増やすと効果も増す)は特に精神疾患ではないことも多く、今回もなかった。ただ、本剤の安全性が高く、最適な用量を発見するため高い用量も試験した
- 今後、マイルストーンを受領する際には改めて開示。ニューロクライン・当社ともに本進捗を極めてポジティブに捉えている
- Phase3試験は2025年の前半に開始される予定
詳細は以下をご覧ください。
本試験の主要評価項目であるPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)の改善幅は18.2、プラセボ調整後で7.5(p=0.011、Effect size: 0.61)となりました。これは事前に期待されていた「プラセボ調整後で8以上の改善」という数値目標には若干及ばなかったものの、ベースラインからの改善は18.2と他と比較しても遜色ない結果となり、十分な有効性が確認されました。(結果の解釈については、ニューロクライン社からの説明を本記事の下部に記載しておりますので、そちらをご確認ください)
また、特筆すべき点として、安全性・忍容性が高かったことが挙げられます。これまでのムスカリン作動薬は、その選択性の低さから消化器症状や心血管系の副作用が懸念とされてきました。NBI-1117568では、全ての用量で高い忍容性・安全性が確認され、治験を中断した被験者は5.0%とプラセボ群の4.3%と同程度でした。
ムスカリン受容体は選択性が非常に重要であり、選択性が低いと消化器系、心血管系の副作用が増えると言われています。本臨床試験では、それらの割合が高くなかったことから、NBI-568がM4に対して非常に選択性高く作用していると考えられます。(2024年6月個人投資家説明会資料:P40)
Q1:プラセボ調整後のTotal PANSSのスコアが期待されていた8に届かなかったが、この結果についてどう考えているか
A1:1日1回、20mg投与によるリスク・ベネフィットは競争力があると確信している。なお、プラセボ調整後の改善幅が注目されることも多いが、医師はベースラインからの改善幅を重視する傾向がある。そのため、今回ベースラインからの改善が18.2という結果は非常に説得力があるものだと考えている。なお、今回我々は3番手として開発を行っており、ムスカリン作動薬は効果があるという期待がかかっていたこともあり、プラセボ効果が高くなることは予想していたが、その通りの結果となった。
Q2:なぜ用量反応性がなかったのか。なぜ高容量では効果がなかったのか
A2:精神疾患における臨床試験では珍しくない現象。我々は、20mgが有望だということは事前に予想していた。ムスカリン受容体全体のメカニズム由来の可能性もあれば、薬物の特性の可能性もあるが、なぜこのような現象が起こったかは真の原因は定かではない。ただし、このような現象は一般的に見ても起こりうるものだと考えている。
KarXTはこのような現象が見られなかったが、この薬剤は30年前から研究がされており用量についてもよく理解されていたことが要因だろう。
今回の試験の試験の目的として、有効性を発揮する用量の探索に加え、高容量を複数回投与した際の安全性を確認することだった。前臨床試験やP1試験のデータから20mgの投与量が有望だと予想はしていたが、今回の試験では20mgの有効性に加え、さらに上の用量の安全性も確認できた。その意味でも、本試験は非常にいいデータが得られた。
20mg投与群では、3週から6週まで一貫してプラセボとの統計的有意差が見られたことから再現性のある反応が見えた。また、追加評価項目も有効性を示唆しており、効果量も大きい。そのため、20mg投与群におけるデータは強固だと考えており、用量依存的な有効性が見られなかったことで、20mg自体の有効性・安全性を損なうものではない。
ネクセラ注:用量を増やしすぎると有効性が低下する「ベル型 (bell-shaped。逆U字型ともいう)」の用量・反応曲線を示す薬剤や、用量をある程度増やすと有効性が低下し、さらに上げると有効性が向上する「U字型」の用量・反応曲線を示す薬剤は多くはないものの、珍しくはありません。例として、リスペリドンやハロペリドールなどが挙げられます。(参考文献)精神疾患領域で「ベル型」がよく見られる要因として、脳内の複雑なフィードバックシステムに起因する(受容体を刺激しすぎると、他のシステムが作用して負のフィードバックをかけ、恒常性を保つ機能が他の臓器よりも強い)とも言われていますが、原因ははっきりしていません。
Q3:プラセボ調整後のPANSSスコアが5週から6週にかけて低下しているが、これは何が原因か
A3:ばらつきの問題と考えられる。6週で統計的に有意な差が見られなくなる場合や、6週のみ差がみられる場合は問題だが、今回は3週から6週まで一貫して統計的に有意な差が見られた。そのため、ノイズのようなものだと考えている。
Q4:20mgよりも低い用量を検討するのか
A4:前臨床やP1試験のデータから20mgが有効であるという確信は持っているものの、より低用量については今後議論の余地はあり、最終決定はしていない。いずれにせよ、P3試験はよりシンプルな試験デザインにしたい。
Q5:今後どのような追加適応を考えているか
A5:自社のポートフォリオ全体を見据え、どのプログラムがどの適応症に最も適切かをほかのムスカリンポートフォリオのデータも見て見極めていきたい。重要なのは、NBI-568を統合失調症治療薬として開発し、他の化合物をP2に進め他の適応症を検討していくことだと考えている。
Q6:他社のムスカリン作動薬と比較したときの優位性は
A6:Cerevel社が開発中のemraclidineはムスカリンM4受容体のポジティブ・アロステリック・モジュレーターであり、内因性のアセチルコリンが必要となる。内因性のアセチルコリンの量は患者集団や病態によって異なることが知られており、そのような患者に対しては適用が難しい可能性がある。一方でNBI-568はオルソステリック作動薬であり、内因性のアセチルコリンを必要としない。そのため、統合失調症だけでなく、M4活性化が重要となる疾患に対してより効果的となる可能性がある。
また、Karuna Therapeutics社が開発中のKarXTはM1/M4デュアル作動薬だが、作動薬として働くxanomelineと、副作用を抑えるためのtropiumの合剤となっている。ただし、完全にオフターゲット効果を抑えられるわけではないうえ、1日2回投与が必要となる。NBI-568は単剤でM4に対して500倍の選択性有することからオフターゲット効果を避けることができ、1日1回投与が可能で利便性が高い。
Q7:心血管系の有害事象など、深刻なものはなかったのか
A7:発表資料の表に深刻な有害事象の記載がないのは、実際に深刻なものは何も見られなかったから。高血圧など心血管系の有害事象も見られなかったことは非常に心強い結果。高容量でも安全性が確保され、20mgで次のフェーズに進めることを考えれば、これは非常に頼もしい結果となった。
ネクセラ注:M4とよく似ているM2は心血管系に影響があるムスカリン受容体で、この受容体にオフターゲットで作用すると心血管系の有害事象が見られる可能性があります。また、M3は内臓の平滑筋に影響があるムスカリン受容体ですが、今回は心血管系の有害事象や消化器系の有害事象が多くなかったため、オフターゲット効果は最小限に抑えられていると考えられます。
Q8:全体的に、今回の結果に対する感想は
A8:今回の結果では有効性や高い安全性・忍容性だけでなく、1日1回の投与が可能であり、食事の影響を受けないという利便性も確認できた。このことから、統合失調症だけでなく、他のポートフォリオも含め他の疾患への適用可能性も高まったと考えている。