2024年8月29日木曜日

ニューロクライン社がM4作動薬のP2試験で良好な結果を発表

みなさんおはようございます、IR&コーポレートストラテジー部長の田原です。

昨日のリリースの通り、ニューロクライン社が開発するM4作動薬(NBI-1117568)のP2試験で良好な結果が確認されました。ポイントは以下です。


  • 20mgの投与量で主要評価項目を達成し、総PANSS、陰性、陽性のいずれのスコアも統計的に有意に改善した(総PANSSスコアの改善でp=0.011)
  • 副作用は狙い通り少なく、加えて1日1回の経口投与で効果が見られたことで、競合に対して強い競争力となる可能性がある
  • 用量依存性(薬を増やすと効果も増す)は特に精神疾患ではないことも多く、今回もなかった。ただ、本剤の安全性が高く、最適な用量を発見するため高い用量も試験した
  • 今後、マイルストーンを受領する際には改めて開示。ニューロクライン・当社ともに本進捗を極めてポジティブに捉えている
  • Phase3試験は2025年の前半に開始される予定


詳細は以下をご覧ください。


本試験の主要評価項目であるPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)の改善幅は18.2、プラセボ調整後で7.5(p=0.011、Effect size: 0.61)となりました。これは事前に期待されていた「プラセボ調整後で8以上の改善」という数値目標には若干及ばなかったものの、ベースラインからの改善は18.2と他と比較しても遜色ない結果となり、十分な有効性が確認されました。(結果の解釈については、ニューロクライン社からの説明を本記事の下部に記載しておりますので、そちらをご確認ください)

また、特筆すべき点として、安全性・忍容性が高かったことが挙げられます。これまでのムスカリン作動薬は、その選択性の低さから消化器症状や心血管系の副作用が懸念とされてきました。NBI-1117568では、全ての用量で高い忍容性・安全性が確認され、治験を中断した被験者は5.0%とプラセボ群の4.3%と同程度でした。


ムスカリン受容体は選択性が非常に重要であり、選択性が低いと消化器系、心血管系の副作用が増えると言われています。本臨床試験では、それらの割合が高くなかったことから、NBI-568がM4に対して非常に選択性高く作用していると考えられます。(2024年6月個人投資家説明会資料:P40)

このことは、当社のNxWave™プラットフォームが標的分子に対して選択性高く作用する分子を設計できることを、臨床試験をもって実証できたことになり、当社としても非常に大きな節目となりました。
また、統合失調症や他の精神疾患の患者さんにとっても非常に心強い結果だと考えています。現在治療薬のオプションは多くあるものの、副作用の観点からも治療満足度が低い状態です。そのため、今回の試験で高い安全性や忍容性が確認できたことで、NBI-568が新たな治療オプションとなる可能性があります。

一方で、今回の試験はP2試験であり少人数での安全性・有効性を確認したにすぎません。来年に始まる可能性があるP3試験の成功や、今後の適用拡大や他のムスカリンポートフォリオの推進に向けて、引き続き頑張ってまいります!



また、日本時間の8/28夜9時にニューロクライン社からプレゼンテーションがあり、試験結果に関する説明や質疑応答がありましたので、いくつかピックアップして内容をご紹介します。(資料へのリンクはこちら
なお、番号については実際の説明・質疑の順番とは異なります。

Q1:プラセボ調整後のTotal PANSSのスコアが期待されていた8に届かなかったが、この結果についてどう考えているか

A1:1日1回、20mg投与によるリスク・ベネフィットは競争力があると確信している。なお、プラセボ調整後の改善幅が注目されることも多いが、医師はベースラインからの改善幅を重視する傾向がある。そのため、今回ベースラインからの改善が18.2という結果は非常に説得力があるものだと考えている。なお、今回我々は3番手として開発を行っており、ムスカリン作動薬は効果があるという期待がかかっていたこともあり、プラセボ効果が高くなることは予想していたが、その通りの結果となった。

Q2:なぜ用量反応性がなかったのか。なぜ高容量では効果がなかったのか

A2:精神疾患における臨床試験では珍しくない現象。我々は、20mgが有望だということは事前に予想していた。ムスカリン受容体全体のメカニズム由来の可能性もあれば、薬物の特性の可能性もあるが、なぜこのような現象が起こったかは真の原因は定かではない。ただし、このような現象は一般的に見ても起こりうるものだと考えている。
KarXTはこのような現象が見られなかったが、この薬剤は30年前から研究がされており用量についてもよく理解されていたことが要因だろう。

今回の試験の試験の目的として、有効性を発揮する用量の探索に加え、高容量を複数回投与した際の安全性を確認することだった。
前臨床試験やP1試験のデータから20mgの投与量が有望だと予想はしていたが、今回の試験では20mgの有効性に加え、さらに上の用量の安全性も確認できた。その意味でも、本試験は非常にいいデータが得られた。

20mg投与群では、3週から6週まで一貫してプラセボとの統計的有意差が見られたことから再現性のある反応が見えた。また、追加評価項目も有効性を示唆しており、効果量も大きい。そのため、20mg投与群におけるデータは強固だと考えており、用量依存的な有効性が見られなかったことで、20mg自体の有効性・安全性を損なうものではない。

ネクセラ注:用量を増やしすぎると有効性が低下する「ベル型 (bell-shaped。逆U字型ともいう)」の用量・反応曲線を示す薬剤や、用量をある程度増やすと有効性が低下し、さらに上げると有効性が向上する「U字型」の用量・反応曲線を示す薬剤は多くはないものの、珍しくはありません。例として、リスペリドンやハロペリドールなどが挙げられます。(参考文献精神疾患領域で「ベル型」がよく見られる要因として、脳内の複雑なフィードバックシステムに起因する(受容体を刺激しすぎると、他のシステムが作用して負のフィードバックをかけ、恒常性を保つ機能が他の臓器よりも強い)とも言われていますが、原因ははっきりしていません。

Q3:プラセボ調整後のPANSSスコアが5週から6週にかけて低下しているが、これは何が原因か

A3:ばらつきの問題と考えられる。6週で統計的に有意な差が見られなくなる場合や、6週のみ差がみられる場合は問題だが、今回は3週から6週まで一貫して統計的に有意な差が見られた。そのため、ノイズのようなものだと考えている。

Q4:20mgよりも低い用量を検討するのか

A4:前臨床やP1試験のデータから20mgが有効であるという確信は持っているものの、より低用量については今後議論の余地はあり、最終決定はしていない。いずれにせよ、P3試験はよりシンプルな試験デザインにしたい。

Q5:今後どのような追加適応を考えているか

A5:自社のポートフォリオ全体を見据え、どのプログラムがどの適応症に最も適切かをほかのムスカリンポートフォリオのデータも見て見極めていきたい。重要なのは、NBI-568を統合失調症治療薬として開発し、他の化合物をP2に進め他の適応症を検討していくことだと考えている。

Q6:他社のムスカリン作動薬と比較したときの優位性は

A6:Cerevel社が開発中のemraclidineはムスカリンM4受容体のポジティブ・アロステリック・モジュレーターであり、内因性のアセチルコリンが必要となる。内因性のアセチルコリンの量は患者集団や病態によって異なることが知られており、そのような患者に対しては適用が難しい可能性がある。一方でNBI-568はオルソステリック作動薬であり、内因性のアセチルコリンを必要としない。そのため、統合失調症だけでなく、M4活性化が重要となる疾患に対してより効果的となる可能性がある。
また、Karuna Therapeutics社が開発中のKarXTはM1/M4デュアル作動薬だが、作動薬として働くxanomelineと、副作用を抑えるためのtropiumの合剤となっている。ただし、完全にオフターゲット効果を抑えられるわけではないうえ、1日2回投与が必要となる。NBI-568は単剤でM4に対して500倍の選択性有することからオフターゲット効果を避けることができ、1日1回投与が可能で利便性が高い。

Q7:心血管系の有害事象など、深刻なものはなかったのか

A7:発表資料の表に深刻な有害事象の記載がないのは、実際に深刻なものは何も見られなかったから。高血圧など心血管系の有害事象も見られなかったことは非常に心強い結果。高容量でも安全性が確保され、20mgで次のフェーズに進めることを考えれば、これは非常に頼もしい結果となった。

ネクセラ注:M4とよく似ているM2は心血管系に影響があるムスカリン受容体で、この受容体にオフターゲットで作用すると心血管系の有害事象が見られる可能性があります。また、M3は内臓の平滑筋に影響があるムスカリン受容体ですが、今回は心血管系の有害事象や消化器系の有害事象が多くなかったため、オフターゲット効果は最小限に抑えられていると考えられます。

Q8:全体的に、今回の結果に対する感想は

A8:今回の結果では有効性や高い安全性・忍容性だけでなく、1日1回の投与が可能であり、食事の影響を受けないという利便性も確認できた。このことから、統合失調症だけでなく、他のポートフォリオも含め他の疾患への適用可能性も高まったと考えている。

2024年8月15日木曜日

ダリドレキサント関連のアップデート

みなさんおはようございます、IR&コーポレートストラテジー部長の田原です。

先日の2024年第2四半期決算の説明会にご参加いただいた皆さまはありがとうございました。Q&Aについては後日当ブログでご回答させていただきます。

本日はダリドレキサントに関する最新情報をいくつかアップデートさせて下さい。

免責事項:本記事には、医薬品に関する情報が含まれています。ここに記載されている内容は、株主や投資家の皆さまのための情報開示を目的としており、一般の方への情報提供を目的としたものではなく、開発品を含むいかなる医療用医薬品の宣伝広告、医学的アドバイスを意図するものではありません。

厚労省の薬事審議会の議題に記載参考リンク

決算説明会でも野村や田中からご説明しましたが、厚労省の薬事審議会(医薬品第一部会)の議題にダリドレキサントが記載されました。

今回、8月の部会でダリドレキサントの「製造販売承認の可否」が議題に記載されましたが、部会で承認が認められればどこかのタイミングで承認となります。なお、医薬品の承認は通常3、6、9、12月の年4回のタイミングです。

また、承認から薬価収載までは「原則60日以内、遅くとも90日以内(参考)」となります。今後も、患者さまの為に一刻も早くお届けできるよう一同頑張ってまいります。


ダリドレキサントの臨床試験の論文公開

ダリドレキサントの日本での臨床試験結果に関する論文が3報公開されました。ダリドレキサントは、グローバル試験に基づいて海外では既に承認・販売されていますが、日本では独自の国内臨床試験を行いました。今回はその国内臨床試験のPh1、2試験の論文1報、Ph3試験の論文2報が公開されましたので、その概要をご紹介します。

タイトル:Pharmacokinetics, safety, and efficacy of daridorexant in Japanese subjects: Results from phase 1 and 2 studiesリンク

  • ダリドレキサントの薬物動態試験結果(Ph1)、および少人数(47名)での有効性確認試験結果(Ph2)
  • ダリドレキサントは、夜間における睡眠をカバーし、かつ残留効果を最小限に抑えられる最適な半減期を目指して設計されました。本試験の結果、ダリドレキサントの半減期は約8時間であることがわかり、FDAに承認されている3つのDORAの中で最も短かいと考察されています。
  • 試験を行った全用量(10 mg、25 mg、50 mg)で良好な忍容性が確認され、翌朝への効果の持ち越しも見られませんでした。また、反復投与による蓄積はほとんど、もしくは全くありませんでした
  • また、用量依存的な有効性が確認されました
  • 双方の試験で最もよく見られた治験関連の有害事象(TEAE)は傾眠でした。朝に投与を行ったPh1試験では、10mg, 25mg, 50mg, プラセボでそれぞれ50%, 91.7%, 91.7%, 16.7%の割合で傾眠が見られました。また、Ph2では5-10%の被験者で傾眠が見られました
  • 全体的に、試験結果は外国人を対象とした試験から得られる結果と合致していました

タイトル:
Daridorexant in Japanese patients with insomnia disorder: A phase 3, randomized, double-blind, placebo-controlled studyリンク
  • 日本人の不眠症患者490名を対象とし、4週間投与による安全性・有効性を確認した国内Ph3の試験結果
  • 投与開始28日目(4週時点)において、プラセボと比較して、25mg、50mgともに主観的総睡眠時間(sTST)、主観的入眠潜時(sLSO)ともに有意に改善させました
  • 最もよく見られた治験関連の有害事象は傾眠であり、その割合は用量依存的に増加しました(50mg: 6.8%, 25mg: 3.7%, プラセボ: 1.8%)

タイトル:Long-term safety and efficacy of daridorexant in Japanese patients with insomnia disorderリンク

  • 日本人の不眠症患者154名を対象とし、ダリドレキサントを1年間の投与した際の忍容性と安全性の確認試験(プラセボ投与はなし)
  • 50mg(N=102)、25mg(N=52)を1年間投与したところ、治験関連の有害事象(TEAE)はそれぞれ24.5%、19.2%でした
  • 特に注目すべき有害事象として、日中の過度な眠気(25mgで1例、50mgで2例)、睡眠麻痺(50mgで1例)、悪夢(25mgで1例)の計5件が報告されました
  • 50mgよりも25mgの方がTEAEが少ない傾向にあり、とくに50mgで見られた倦怠感は25mgでは見られませんでした
  • 結果的に、25mg、50mgともに52週間の良好な忍容性、安全性が確認されました

今後とも、どうぞよろしくお願いします! 

2024年8月2日金曜日

ニューロクライン社が2Q決算を発表

 みなさんおはようございます、IR&コーポレートストラテジー部長の田原です。

一昨日から昨晩にかけて、我々の提携先であるニューロクライン社とファイザー社が24年2Qの決算を発表しました。ニューロクライン社に関しては3Q中にP2の臨床試験結果が控えていることもあり、質疑応答ではM4作動薬(NBI-1117568)に関する質問が多く寄せられており、市場からの関心が高まっていることが感じられる説明会となりました。詳細については以下をご覧ください。

●ニューロクライン社説明資料

M4作動薬(NBI-1117568)のトップライン結果については、3Q中にニューロクライン社がプレスリリースとウェブ会議を通じて発表するとの説明がありました。先日のブログでもご紹介したPANSSスコアや安全性プロファイルなども含め発表予定とのことです。また、そのほかのムスカリンポートフォリオについても当社の名前も前面に出しつつ、進捗をアピールするものでした。


説明会の質疑応答の中ではM4作動薬をはじめ、ムスカリンポートフォリオに関するものが多く出ました。

”We had a broad range of both preclinical data and Phase 1 information that made us very confident in terms of the safety and tolerability of the doses that we were choosing to take into the clinic.”

前臨床試験やP1試験から広範な情報を得られたことで、臨床での用量や安全性・忍容性に関して非常に自信を持つことができた。

"I think Nxera has done a very significant amount of work pre-clinically both in vitro and in vivo profiling a whole range of molecules. And so, from that perspective, we're confident this is a selective and full agonist."

(ムスカリンポートフォリオについて)Nxera社は前臨床において、非常に多くのIn vitro(細胞等の試験管内での実験)やIn vivo(動物試験)試験を実施し、分子の特性を様々な角度から検証しています。そのため、私たちは自社の分子が選択性の高いアゴニストであると自信を持っています。


●ファイザー社パイプライン

説明会では当社パイプラインに関する言及はありませんでしたが、いずれもパイプライン表やClinicalTrials.govで順調に進捗があることが確認されました。(以下記述はQ1決算時と同様)

GLP-1作動薬(PF-06954522/糖尿病・肥満)
今年2月に健康な方に対するフェーズ1a試験が終了した直後に、患者さまを対象としたフェーズ1b試験が開始され、現在進行中です。また、4月末にはいくつかの剤形をテストする新たなフェーズ1試験の開始が登録されました。

MC4拮抗薬(PF-07258669/栄養失調)
昨年7月に2つ目のフェーズ1試験が完了しており、 今年2月には最初のフェーズ1試験の結果がデータベースに登録されています。

CCR6拮抗薬(PF-07054894/炎症性腸疾患)
現在進行中の、患者さまを対象としたフェーズ1b試験について、今年の4月に、終了時期の前倒し(今年10月→7月)がデータベースに登録されました。また、同じく今年の4月に、新たに日本人を対象としたフェーズ1試験の開始が登録されました。


今後とも、どうぞよろしくお願いします!