みなさんこんにちは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。
本日、新型コロナウイルス(COVID-19、SARS-CoV-2とも呼びます)に対する治療薬創出プログラムの進捗をリリースしました。また、数日前ですがファクトシート(当社HP→株主・投資家情報→投資家の皆様へ→最新IR情報→ファクトシート)を更新しましたので合わせてご報告します。ファクトシートはご存じのない方もいるかと思いますが、概ね四半期ごとに更新しており、その名の通り我々にとって重要な「ファクト」である論文数、構造解析数、最新のパイプラインの状況などを整理しています。今回の更新でも、直近で進捗があったパイプラインと構造解析数(前回280個→今回300個)を主に更新しています。構造解析数の増加は実はとても大切なのですが、長くなりますので、また今度の機会に本ブログで紹介させてください。
さて、本日のメインテーマは新型コロナウイルス治療薬創出プログラムです。これは今年の4月14日に研究開発の開始を発表していたもので(リリース)、今回、有望な化合物候補が得られたので、データと合わせて発表しました(リリース、詳細)。本プログラムの最大の目的は、我々が持つ世界最先端レベルの構造解析技術を、今回のパンデミックの解消や将来のウイルス変異によって起こりえるパンデミックの防止に役立てることで、創薬企業としての社会的な責任をしっかり果たしていくことにあります。加えて、比較的詳細なデータを含めて開示したのは、リリース内で当社のチーフ・サイエンティフィック・オフィサーのマイルスがコメントした通り、新たなパートナーとの協力を通じて開発を前進させたいとの想いからです。
このプログラムの背景や我々の目指す治療薬の位置づけなどは、細かいですが以下に詳述しますので、ご興味がある方はご覧ください。
尚、このプログラムは当社が中心となり、シンジーン・インターナショナル、Domainex、Fidelta、o2h
Discovery、Piramal、ウーシー・アップテック、MRC分子生物学研究所などと協業して、新型コロナウイルス治療薬のターゲットとして有望視されているMain プロテアーゼ(以下、Mpro)に対し、動物実験で高い活性があるだけでなく、経口投与できる可能性の高い体内動態を示す化合物候補を、開始7か月という短期間で獲得できました。手前味噌になりますが、バイオテクノロジーとIT技術を融合した我々のプラットフォーム技術StaR/SBDDが有用な創薬ツールであることも、今回の件を通じて垣間見えたのではないかとも思っています。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!
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新型コロナウイルスの治療方法としては、現在、大きく「ワクチン」「抗ウイルス薬」「対症療法薬」の3つの開発が進んでいます。これらが比較的よくまとまったHPとしては、世界最大のバイオ企業の業界団体であるBioが発表しているBIO COVID-19 Therapeutic Development Trackerなどがあります。これによると現在、世界で進む開発品の数は773本で、およそ1/4が「ワクチン(194本)」、1/4が「抗ウイルス薬(213本)」、残り半分が「対症療法薬(366本)」という割合になっています。なお、蛇足ですが世界の感染状況などの把握にはWorldmeterやWHOが参考になります。
嬉しいことに、最近ではワクチン開発でいくつかの成功が発表されています。ただ、ワクチンがあれば他の治療方法がいらないかといえば、そうではありません。これは新型コロナウイルスよりずっと昔から様々な治療法開発が進められてきた、インフルエンザを考えれば自然なことです。インフルエンザに対しては、ワクチンがあり、抗ウイルス薬(タミフル、ゾフルーザなど)があり、対症療法薬(アセトアミノフェンなど)があります。これらが何重にも防波堤を作って、社会全体では基本的にインフルエンザはそれほど怖くない病気になっています(但し、高リスクの方は要注意です!)。新型コロナウイルスも将来的には、このように治療体系が確立すると思われます。
さて、この中で「抗ウイルス薬」の中身をさらに見てみると、現在は主に新型コロナウイルスに対する抗体が約半分を占めています。ただ、これらはどうしても注射剤になること、価格が高くなりやすいこと、ウイルスの変異に弱い場合が多いこと、などから、基本的には重症者への使用が主になります。残りの半分の中に、現在よく目にする抗インフルエンザ薬のように軽度~中等度でも幅広く使用できる可能性がある薬が含まれており、メカニズムとして多いのは「ウイルスの複製を抑える薬」と「ウイルスの細胞侵入を防ぐ薬」です。これらは既存の抗インフルエンザ薬などでも検討が重ねられた、ある程度、確立した作用メカニズムでもあります。当社の新型コロナウイルスの治療薬候補は、この「複製を抑える薬」に該当します。
その中でも我々がMproをターゲットとした理由は、Mproが複製の中でも根幹を担うタンパク質で、今回の新型コロナウイルスだけではなく、将来の変異したウイルスに対しても有効な可能性が高いこと、また、タンパク質の構造を精密に分析できる我々のStaR/SBDDを含めた創薬ノウハウを駆使することにより、経口投与可能な最適な化合物を、素早く獲得できる可能性が高いターゲットだと考えたためです。
実際にMproは、新型コロナウイルスに対する有望な標的タンパク質であることが報告されて以降、世界中で研究が開始されています。代表的なのは6月に有名科学雑誌「Science」に論文として掲載された2つの薬の候補ですが、これら2つの薬の候補の活性はIC50=0.053μMと0.040μMだったのに対し、今回の我々の治療薬候補はIC50=0.02と、これら2つより強い活性を示すことができました(IC50は値が低いほど活性が強い)。また、Mproをターゲットとした新型コロナウイルス治療薬候補としては現在1本のPhase1試験が開始されていますがこれは注射剤で、我々は経口で投与可能な体内動態を示す化合物を得られている点がメリットだと考えています。
今回は内容がやや込み入っていたため長くなってしまいました。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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【2020年12月期の進捗(主に今期収入と関連するものを主に抜粋)】
(発表日) (内容) (今期PLの売上げと関連する部分)
6月25日 (参考)/2Q アッヴィとの新規創薬提携 複数年で受領する契約一時金と初期マイルストーン合計:最大 32 百万ドル
6月29日 (参考)/2Q エナジアが日本で承認を取得 マイルストーン:1.25百万ドル
7月7日 (参考)/3Q エナジアが欧州で承認を取得 マイルストーン:5百万ドル
9月28日 (参考)/3Q ファイザー社が臨床試験を開始 マイルストーン:5百万ドル
11月2日 (参考)/4Q HTL0014242をTempero社に導出 契約一時金:非開示