Sosei Heptares Official Blog
2023年9月12日火曜日
M1/M4作動薬のフェーズ1試験が始まりました
2023年8月14日月曜日
EP4拮抗薬のフェーズ1試験が始まりました
みなさんおはようございます。CFOの野村です。
我々の自社開発品のEP4拮抗薬(HTL0039732)について、先週末に最初の被験者への投与が完了し、フェーズ1/2a試験が開始されました(参考)。被験者への投与は3Qになってしまいましたが、今年の上期に予定していた2つの臨床試験については、これでいずれも開始することができました。この試験は、世界最大の民間がん研究基金である英国王立がん研究基金:CRUKの資金で実施されますが(併用するチェックポイント阻害剤が高額なため投資効率が大きく高まります)、権利は当社が保持し、試験結果が良好であれば大手製薬企業等へのライセンスを行う予定です。
この試験はフェーズ1とフェーズ2aを連続して行うもので、合計150名の固形がんの患者さまの参加を予定しています(参考)。HTL0039732はがん免疫療法治療薬候補で、PD-1/PD-L1抗体など他のチェックポイント阻害薬の併用で高い効果が期待されています。このフェーズ1/2a試験でも単剤の他に、まずはチェックポイント阻害薬の1つであるロシュ社のテセントリク(2028年売上高予想1.1兆円:Evaluate Pharmaより)との併用で試験が行われる予定で、上記のサイトにもあるように、さらに他の治療薬との併用が試験に追加される可能性があります。
青:治療なし
緑:HTL0039732(単剤)
黒:PD-1抗体(単剤)
赤:HTL0039732+PD-1抗体
昨年のR&D説明会資料でお示しした動物試験のデータでも、HTL0039732はPD-1抗体との併用で非常に高い効果が出ています。PD-1抗体を代表とするチェックポイント阻害薬は、がん治療に高い効果を発揮し、2028年の売上高は約720億ドル(約10兆円/Evaluate Pharmaより)に達すると見込まれていますが、平均して投与された患者さまの3~4割への効果に留まっており、特にマイクロサテライト安定性*(MSS)大腸がん、胃食道がん、頭頸部がん、去勢抵抗性前立腺がんなどでは、十分な効果が得られていません。HTL0039732を併用することで、これらのがんの患者さまへ十分な治療効果が得られることを願っています。
がん細胞にあるEP4受容体は、炎症とがんの成長に必要な血管新生を促進し、制御性T細胞(Treg)などを介して免疫反応を抑制することで、がんの成長を助け、がんが免疫で排除されるのを防いでいることが、近年明らかになってきています。我々とは直接関係ありませんが、日本の大学からも素晴らしい研究成果が発表されています(参考)。いくつかのEP4拮抗薬が臨床段階にありますが、最も進んでいるものでも早期のフェーズ2段階、かつ今回の150名の試験と比べるとかなり少人数の試験であり、HTL0039732が世界で初めて、EP4拮抗薬の有用性を明確に示すことを期待しています。
なお、リリース内にもある通り、HTL0039732は英国で新たに設定された承認支援スキームであるInnovative Licensing and Access Pathway(ILAP)のイノベーション・パスポートを取得しています(参考)。ILAPは2021年に新たに設立された、新薬承認を加速させるスキームで、まだ運用の実績が多くありませんが、端的にはこれまで主に企業が行ってきた臨床試験、承認、保険適用のプロセスに規制当局等が伴走し、より早い承認を企業と当局が協力して目指すスキームになります。日本の先駆け審査指定制度にも、一部、近いものを感じます。
がんはいまだに、世界中で多くの患者さまがいる、アンメットニーズが非常に大きな疾患です。我々のStaR技術による精密な創薬から生まれたHTL0039732が、多くの患者さまの助けになる、がん治療のブレークスルーとなれるよう全力で開発を進めていく所存です。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!
2023年8月6日日曜日
2Q決算を発表しました
みなさんこんばんは。CFOの野村です。
8月4日(金)に2023年12月期の上期決算を発表し、決算説明会を開催しました。決算説明会にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。詳細はリンクをご覧いただければと思いますが、以下でポイントを絞って解説します。
決算説明会動画 (WEBCASTのマークをクリック)
●業績の概要
売上高は21億円で前年度から12%減少しました。これは主にノバルティス社の主力製品(シーブリ、ウルティブロ)が発売から10年以上が経過し、ロイヤルティ収入が減少しているためです。例年、大手製薬企業等との新規提携などは下期に多い傾向がありますが、今年も例外ではなく、クリスからの説明にもあった通り、下期に向けて着実に新規契約や、既存契約の進展を加速させていきたいと思っています。
【主要決算数値(説明会資料:P6)】
23年12月期の費用見込みやこれまでの費用消化については、当初の見込みから変更はありません。一方で、資料でも強調している通り、7月20日に発表・実施したイドルシア社の日本/APAC事業買収の影響は現在精査中で、ここには含まれていません。これらの影響は、次の連結の四半期決算(3Q決算:例年11月前半)以降に、より詳細にお示しさせていただく予定です。
【23年12月期の費用見込み(説明会資料:P7)】
●開発パイプライン
個別の進展はリリースでも開示していますが、主要パイプラインとその進捗は決算説明会資料P13の通りです。
自社開発品 - GPR52は7月3日に発表の通り、最初の被験者への投与が完了し、フェーズ1試験が開始されました(参考)。CRUKと共同で進めているEP4拮抗薬も、既に関連するWebサイトへの登録は完了しており(参考)、最初の被験者への投与が間もなく始まると期待しています。
Tempero Bio社 - 1月5日に開示の通り、Tempero Bio社(mGlu5NAM)の助成金受領とFDAからの臨床試験開始の承認が発表されました(参考)。
Centessa社 - 3月30日に開示されたCentessa社の通期決算で、当社がライセンスしているOX2作動薬のORX750のについて、前臨床試験を実施中であること、また、2023年後半に学会でデータを発表予定であることが発表されました(参考)。
イドルシア社の日本+APAC事業の取得 - こちらは別途詳細をご説明の通りですが、本買収で日本での多くの製品・開発品を獲得しました(参考)。今年下期に絞っても、ダリドレキサントの日本での承認申請予定、ピヴラッツの韓国での承認取得など、多くの進展を期待しています。
【主要パイプラインと進捗(決算説明会資料:P13)】
●その他
23年度はこれまでのところ業績面では例年と比べて大きな変化はありませんが、3月の東証プライム上場や、7月のイドルシア社(日本+APAC)買収など、我々の長年の目標を達成し、大きく事業を前進させることができた、非常に充実した期間でした。これらの進展をテコに、今後はヘプタレス社の最先端の創薬プラットフォーム技術と、イドルシア社の強力で効率的な開発・販売能力を両輪として、日本発で世界に冠たるバイオ企業となるべく、取り組みを加速させていきます。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!
2023年7月23日日曜日
イドルシア社の事業取得+説明会Q&A
みなさんこんばんは。CFOの野村です。
20日に発表の通り、イドルシア社の日本およびAPAC事業(中国を除く)を650億円で取得しました。特に先週はとても忙しい一週間で、ブログの投稿が本日になってしまい申し訳ありませんでした。
プレスリリース、説明会資料・動画で既に多くが説明されていますので、ここでは詳しくは書きませんが、我々が昨年来目標としてきた「安定した収益源をもたらすM&A」「日本・APAC市場向け後期開発品の導入」「日本事業の確立」を一挙に達成/明確な道筋をつける、革新的な取引だったと自負しています。今後、GPCRに対する世界トップレベルの創薬プラットフォームを持つ英国ヘプタレス社と、卓越した臨床開発・収益力の高い販売力を持つイドルシア・ジャパン/コリアを両輪に、両社間のシナジーも上乗せし、より力強い成長を目指していく所存です。
説明会は直前の案内(15:30発表、17:00説明会開始)にもかかわらず、Web含め385名という非常に多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。当日の口頭での質疑応答は上記のリンクの動画に含まれていますが、時間内にお答えしきれなかったチャットでのご質問や、その前後にテキストでいただいていた合計33件のご質問のうち、重複を整理した以下の26件について以下お答え致します(※カッコ内の数字は同様の主旨の質問の件数です)。
当社は2015年のヘプタレス社買収に引き続き、本買収によってさらなる飛躍を目指していきます。今後とも、どうぞよろしくお願いします!
●買収金額・資金調達について(9)
1.
そーせいにとって非常に魅力的な金額の買収に感じるが、650億円の買収価格をどう評価しているか?
(2)
我々も非常に魅力的な買収だったと考えています。何らかの権利を獲得した9品目のうち、2品目(ピヴラッツとダリドレキサント)の3地域(日本、韓国、台湾)に絞ったピーク時の売上(予想)が350億円以上、EBITDA(予想)が100億円以上であり、仮にこれだけを考えたとしても、魅力的な条件とみています。それに加えてオプション権等を持つ開発品(7品目)、権利を持つ地域(12か国)、ヘプタレス社開発品とのシナジー、本プラットフォームを活用した新規導入品は、全て追加でのアップサイドになります。
2.
イドルシアジャパン(IPJ)が魅力的だったのであれば、なぜイドルシア社(スイス)はこのような優良な事業を売却したのか?(2)
イドルシア社(スイス)の決定ですので当社からはコメントできません。参考情報として、イドルシア社(スイス)は非常に優れた研究開発機能を持ち、そこへの投資を先行させている企業であること(22年の純損失:約1,325億円、22年末の現金残:約746億円)、また、本取引の前後でいくつかの発表をしていますので、そちらをご参考下さい(6/6発表、7/21発表)。
3.
みずほ銀行からの400億円の長期借入金の金利はどの程度か?また、純資産維持や純損失などのコベナンツはあるのか?(2)
正確にはお答えできませんが、金利は極めて魅力的な条件を提示いただきました。コベナンツも同様で、ご指摘のような、通常設定されるようなコベナンツのほとんどは設定されていません。本件については、みずほ銀行そして担当チームの多大なるサポートに感謝しています。
4.
300億円の転換社債のプットオプションは24年7月から行使可能になるが、それまでの間、あるいはその時点での現金残高をどう考えているか?(2)
本取引は一時的な手数料などを除き、プラスのキャッシュフローを継続的に生み出すものであり、加えて本取引終了時点でも我々は現預金約420億円を確保していますので、現金残高に不安材料はありません。
5.
今回の件に関連して、増資等の資金調達は検討しているのか?
本取引については、既に手元の現金と上記のみずほ銀行からの魅力的な長期借入で資金目途が十分立っていますので、現時点で関連する追加資金調達は考えていません。ヘプタレス社買収の際に行った短期の銀行借入(7カ月間が期限のつなぎ融資/参考)に対し今回の銀行借入は7年間の長期借入れであり、状況が全く異なります。
●今後の業績・財務について(7)
6.
みずほ銀行への返済プランはどうなっているのか?さらにこれらの返済と開発投資を考慮した場合、通期での黒字は確保できるのか?(2)
みずほ銀行への返済はIPJを加えた当社のキャッシュフローから、四半期ごとに行います。IPJ単体の業績は大きく成長中であり、PL(銀行返済なし、償却あり)、キャッシュフロー(銀行返済あり、償却なし)は、現在想定される開発投資を考慮しても、いずれも通期で連結される来期以降はプラスの予定です。今期も方向性に大きな違いはありませんが、連結期間6カ月弱に対して買収に伴う一時費用がフルで加味される可能性があること、また、会計基準のIFRSの適用などがあるため、影響を精査中です。
7.
黒字化の達成、配当が可能となる時期等の目安はあるか?
買収関連の一過性の費用を除けば、IPJ単体は今期から継続的に黒字拡大予定であり、ヘプタレス社の開発進展や新規契約に左右される部分もあるものの、グループ全体でも黒字化を目指します。現在、ヘプタレス社は新規提携のため複数社との交渉を進めています。IPJがグループに加わったことで今後はより財務的安定性が増すことが見込まれ、製品やロイヤルティからの収益で安定的な黒字化の目途が立った時点で、配当を検討していく予定です。
8.
イドルシアジャパン(IPJ)の総資産と純資産の差額が174億円あるが、これは銀行借入か?
主にイドルシア社(スイス)との間の会社間の負債であり、本取引の完了と同時に消滅予定です。IPJに銀行借入等の負債はありません。
9.
ピヴラッツやダリドレキサントの販売に関して、イドルシア社(スイス)へのロイヤルティの支払いは必要か?
個別の契約内容の詳細は開示できませんが、当社としてこれら2品目に対する外部へのロイヤルティ支払いは発生します。一方、これらはいずれも最大でも1桁台と小さいことに加え、そもそも一定の売上を超えた分のみに支払うように設定されているものもあり、全体として大きなものではありません。
10.
ピヴラッツ単独で考えた場合、今年の売上予想133億円の中で粗利はどのくらいあるのか?
個別製品の粗利は申し訳ないですが開示できません。一方で、我々は現在の粗利で十分な利益を確保できると考えており、加えて現在のピークEBITDAには織り込まれていないものの、製造元の切り替えなどを含めた将来的なコスト低減努力も検討します。
11.
セネリモドやルセラスタットのオプション権について、権利獲得には追加でいくらのオプション料を支払う必要があるか?
個別の契約内容の詳細は開示できませんが、2つのオプション権を合計しても、今回のディール全体の3%に満たない、小さい金額になります。
●IPJの開発品について(7)
12.
ピヴラッツのグローバルのフェーズ3試験結果は主要評価項目が未達だが、国内の売上には影響しないのか?(2)
影響は全くないと考えています。日本はグローバルとは独立した2つの国内フェーズ3試験(JapicCTI-163368/JapicCTI-163369)でいずれも主要評価項目を達成しており、加えて直近で、日本の脳卒中専門医の先生方からの高い評価を背景に、脳卒中治療ガイドラインに本年8月掲載されることが新たに決定しました。グローバルのフェーズ3試験は日本の試験とは主要評価項目、投与タイミング(日本:48時間以内/世界:96時間以内)、併用される薬、評価方法のプロトコルなど、数多くの点が異なっています。むしろ、国内試験での成功はIPJの高い開発能力、また日本の医師/医療関係者の皆さまの高いレベルを改めて示すもので、当社として日本での優れたプラットフォームを起点に、APACへの拡大を可能とする重要なドライバーと考えています。
13.
LucerastatのグローバルPhase3試験結果は主要評価項目が未達だが、今後どのように開発を進めるのか?
今後、日本の規制当局との協議を進め、最終的にオプション権の行使有無や開発方針を決定する予定です。主要評価項目は未達でしたが、患者さまでのいくつかの改善もみられており、これらに基づき、日本での少数例の追加試験での承認獲得が可能か否かについて今後の協議を進めます。
14.
海外のダリドレキサントの売上は低調だが、国内での売上をどのように考えているか?
ダリドレキサントは「デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)」という新しいタイプの不眠症治療薬ですが、このDORAは日本の著名な研究者が発見・研究を進めたもので、安全性・有効性は海外に比べて日本で最も高く評価されています。そのような背景からも、既に実績としてDORA市場の70%以上が日本であるため、海外での低調な売上げは参考にならないと考えています。DORAの先行する2つの製品(デエビゴ、ベルソムラ)の売上高は、2022年に国内で570億円であり(参考/P16)、前年に比べて約28%拡大、今後も拡大が期待されています。ダリドレキサントはこの市場でベストインクラスになることを目指しています。
15.
持田製薬はダリドレキサントの販売で塩野義製薬と提携したが、売上・利益の分配はどうなるのか?
個別の契約内容の詳細は開示できませんが、IPJと契約を行っているのは持田製薬であり、塩野義製薬と持田製薬の提携が、当社の経済条件に直接影響を与えることはありません。IPJと持田製薬の契約に関するリリースはこちらをご覧ください(参考)。
16.
特に既に販売済みのピヴラッツに関して、今後の国内の薬価改定などの影響はどのように考えているか?
薬価改定についてはルールに従う一方で、過度な影響を受けないよう企業としては適正な努力をしていきます。ピヴラッツは十分な臨床効果を示し、実質的な競合品がほぼ無いことに加え、新薬創出加算も適用されているため、一般的には大きな薬価の下落は見込まれないと考えています。
17.
ピヴラッツの市場独占権が2030年(日本)なのはなぜか?特許はもっと長くないのか?
特許期間には様々な要素が含まれますが、現時点では保守的にみて2030年とお示ししました。今後、そもそも現在の特許群のより詳細な分析や、追加の適応症での開発を含めた実質的な特許期間の延長などについても、検討していきます。
●今後の開発計画や既存事業とのシナジーについて(3)
18.
イドルシア社(スイス)の上市品・開発品のAPACでの権利を取得したこと以外、既存事業等とのシナジーはあるか?また、今後のヘプタレス社の既存開発品の開発や導出に影響はあるのか?
日本・APACでのヘプタレス社の自社品や、インライセンスする外部の魅力的な開発品について、開発・販売を行うシナジーを見込んでいます。ヘプタレス社の開発や導出方針への影響は、基本的にありません。IPJは日本・APACでの十二分に優れた開発・販売プラットフォームを持っています。当社は既に日本・APACを自社で開発・販売する戦略を昨年10月に打ち出しており(参考/P15など)、今回の取引はこの方針を加速させるもので、変更するものではありません。
19.
IPJは、ムスカリンシリーズ(M1作動薬、M4作動薬、M1/M4デュアル作動薬)の日本での開発に貢献できるか?
具体的にどの品目を優先して開発していくかは今後の検討次第ですが、当然その可能性はあります。尚、ご指摘の開発品のうち、M1作動薬については当社が日本での権利を持っていますが、残りの2品目については、現時点では全ての権利がニューロクライン社にアウトライセンスされていますので、当社での開発・販売はできません。
20.
開発は日本やAPACで市場が大きい薬に特化するのか?
日本やAPACでアンメットニーズがあり、早期に臨床開発ならびに上市が可能で、かつ適正な利益を得られる薬を優先します。当然、市場の大きさも重要になりますが、既存薬があり競争が激しい、期待される薬価がとても低い、大規模な臨床試験ならびに販売網が必須になる薬は、開発ならびに販売提携を検討する場合もあります。
●その他(7)
21.
Lotiglipronについて新たな情報はあるか?本買収をきっかけに、自社で承認・販売まで行う可能性があるのか?(2)
引き続きファイザー社との間で話し合いを進めており、新たな情報はありません。仮に権利が返還された場合においても、糖尿病/肥満症は既に多くの大企業がしのぎを削る疾患領域であり、自社での承認・販売までを行う可能性はありません。
22.
買収検討を開始してからかなり期間があったが、当初からインドルシア社(スイス)と話し合いを行っていたのか?
いいえ。話し合いはここ3カ月以内に始まり、より本格化な協議は、イドルシア社(スイス)も発表の通り6月初旬に開始されました(参考)。我々は買収検討を開始して以降、常にこのような機会を最大限探索しており、無数の機会を検討してきました。今回、非常に速いスピードで本取引を進められたことは取引成立の重要なカギでもあり、IPJも含めたチームの素晴らしい働きを誇らしく思います。
23.
今回なぜ、日経新聞(WEB)で先に発表されたのか?事前の情報漏洩は無かったのか?
日経新聞の情報源は定かではありませんが、既に当社の発表直前、市場の取引終了後のタイミングであり、重大な情報漏洩等は無かったと考えています。
24.
400百万スイスフランはイドルシア社(スイス)に一括で支払われるのか?
はい、既に一括での支払いを終えております。
25.
現・代表取締役社長の田中氏は、今後どのようなポジションになるのか?
従来のIPJの代表取締役社長、IPKの代表取締役会長に加え、そーせいグループの執行役にも就任いただきました。
26.
今後、大型のM&Aは行わない計画か?
我々はM&Aを成長ドライバーの1つとして積極的に活用してきており、今後も中長期では十分な成長ポテンシャルを持つ企業買収を検討し、買収後の事業成長とシナジーの最大化を図っていきます。一方、650億円の企業の買収を完了させたばかりですので、現時点において短期的にこれを上回る大型のM&Aは検討しておらず、まずはIPJの事業の成長とヘプタレス社とのシナジー創出に、集中したいと考えています。
2023年7月3日月曜日
GPR52作動薬のフェーズ1試験が始まりました
みなさんおはようございます。CFOの野村です。
我々の自社開発品のうちの1つ、GPR52作動薬について、日本時間の週末に最初の被験者への投与が完了し、フェーズ1試験が開始されました(参考)。今年の上期中に予定していた2つの臨床試験開始がやや遅れてしまい申し訳ありませんでしたが、GPR52作動薬の試験がこれで開始され、残るEP4拮抗薬も順調に試験準備が進んでいます。是非、今後の発表をお待ちいただければと思います。
GPR52受容体は、統合失調症の各種症状(陽性症状、陰性症状、認知障害)に効果を発揮する新たな創薬ターゲットとして、2014年に武田の研究者が発表を行って以降、注目を集めてきました(参考)。一方で、オーファン受容体(生体内のリガンドが特定されていない受容体。正確な生理機能が未解明)でもあり、これまでに少なくとも武田薬品とベーリンガーの2社が創薬の検討を行ったとみられますが、いずれも基礎段階に留まり、臨床試験まで進んだのは今回の我々のGPR52作動薬(HTL0048149)が初めてになります。チーム一同、進捗を喜ぶと同時に、今後の開発進展に大いに期待しています。
また、今回の臨床試験の開始は、昨年以降、戦略的に加速させている自社開発での初めての臨床試験の開始となりました。GPR52作動薬も含め、自社開発の主な目標は、初期の臨床試験(フェーズ1b/2a)を自社で行うことで、より高い経済条件で他社へのライセンスを行うことです。また、そのライセンスの際には、基本的に日本・APACの権利は自社で保持し、これらの地域では自社販売までを行うことで、さらに大きなアップサイドを狙っていきます。これは、2021年にニューロクライン社にムスカリン作動薬を導出した際に、M1作動薬(対象疾患:認知症)の日本の権利を保持したのと同じ考え方です。
統合失調症治療薬は、現在、多くの製品が世界中にありますが、残念なことにそのメカニズムは全てドパミン/セロトニンの機能調整に限られており、効果が無い患者さま、また錐体外路症状などの副作用で治療の継続が難しい患者さまが多くいらっしゃいます。我々がニューロクライン社にライセンスし、現在フェーズ2試験が進行中のM4作動薬もそうですが、新たな作用メカニズムの薬が患者様の助けになるよう、今後も全力で開発を進めていく所存です。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!
2023年6月28日水曜日
ファイザー社の発表に関連するQ&A
みなさんこんばんは。CFOの野村です。
月曜日のファイザー社のLotiglipronに関する発表以降、多くのお問い合わせをいただきありがとうございます。回答が遅れている皆様には恐縮です。重複する質問も多くありましたので、10個の主な質問を本ブログで回答させていただきます。
創薬には困難な局面が多くあります。しかし、最後の田村のコメントにもあるように、それを乗り越えることで、結果的により強い企業ができると確信しています。我々は歩みを止めず、世界の患者さんのために事業をより加速させます。今後とも、どうぞよろしくお願いします!
●Lotiglipronの今後の開発方針について
Q1:
Lotiglipronの権利をファイザーから再取得し、新たなパートナーに再導出できる可能性はあるのか?リリース内での「過去のプログラムと同様」「今後の開発の可能性も含めた検討」というコメントは何を指しているのか?
A1: データ次第ですが、現時点で我々としてはLotiglipronの権利の再取得と再導出の可能性を含めて検討を行っており、ご指摘のリリース内のコメントはいずれも、過去に当社が権利を再取得後に他社に再導出し(参考:ムスカリン作動薬再導出/P8)、その後、開発を進めている開発品を意識したものです。現在、フェーズ2試験中のM4作動薬を含め、我々は過去に権利の再取得と再導出を複数回経験しておりますが、これは基本的に、創薬提携を含む全ての提携に「塩漬け防止条項」(開発停止の際に、化合物や関連知財についてパートナーが作成したものも含めて返還を請求できるオプション)を設定しているためです(参考:決算説明会Q&A/QA5)。一方で、権利再取得には現在の臨床データの精査はもとより、関連知財の整理や各種契約上のトリガーが引かれることが一般的に必要であり、現時点では不透明性が高い点はご理解ください。
Q2:
Lotiglipronはファイザー社が作成した化合物なので返還されないという理解でよいか?
A2: 個別の契約へのコメントは差し控えますが、A1の通り一般的には、塩漬け防止条項において化合物や関連知財の作成者と返還は関係ありません。
Q3:
Danuglipronが失敗した場合、Lotiglipronが再度、開発品として選ばれる可能性はあるのか?
A3: ファイザー社次第ではあるものの、一般的に見て可能性はかなり低いと考えられます。仮にそれが検討される場合には、Danuglipronの失敗の時のデータ、Lotiglipronが今回中止された際のデータが重要になると思われます。
●今後の全社戦略について
Q4:
Lotiglipronの開発が中止になったことで、会社としての戦略や方向性に変化はあるか?
A4: 会社としての戦略や方向性について変更はありません。本決算時にもご説明した通り(参考)、以下の目標について積極的に事業を進めていく予定であり、今後、これらの進捗を報告できることを楽しみにしています。
- GPCRのプラットフォームのさらなる強化
- 新たなパートナーとの価値の高い提携
- フェーズ1b/2a段階までの自社での開発の実施
- 日本市場に向けた開発品の獲得と自社品の開発
- 1)~5)を加速しうる、戦略的なM&Aの実施
Q5:
本件によって、転換社債の償還リスクが高まることが考えられるが、対策は考えているか?
A5: 現時点では特段の対策は考えておりません。当社は2023年1Q末時点で660億円超の現預金を保有しており、仮に早期返済のオプションが行使可能となる2024年7月以降に償還を求められるケースにおいても、財務上の問題は発生しません。
その他
Q6: 株価対策として、40以上ある他の開発中パイプラインの進捗状況を積極的に紹介出来ないか?
A6: アーリーすぎるプログラムの進捗開示は、今のところ考えておりません。これは、アーリーすぎるプログラムの成功率は高くない点、また、プログラムの競争優位性を担保するためです。過去のQ&Aにより詳細な理由も記載していますので、こちらもご覧いただければと思います。(参考1:QA19、参考2:QA63)
Q7:
自社開発パイプラインで上期中の臨床入りの予定についてはどうなったのか?
A7: 進捗を発表できておらず恐縮ですが、順調に進展しています。業界の通例に従い、最初の被験者への投与が行われたタイミングで、皆様に進捗をご案内できればと思っています。
Q8: カンファレンスで良好な進捗を発表した直後の中止には、何か特別な背景があるのか?御社は事前に知らさされていなかったのか?
A8: カンファレンスも含めファイザー社の決定ですので、申し訳ないですが我々からのコメントは控えさせていただきます。当社にも事前の通知はありませんでした。ファイザー社との提携は2015年に始まった、基礎の創薬段階に焦点を絞ったものです。基礎段階においては勿論、密なやり取りがありましたが、数年前に当社の担当部分が終了して以降は定期的な報告を受けるに留まっています。これは業界では一般的です。反面、例えばニューロクライン社との提携は臨床試験も提携のスコープに入っていますので、前臨床・臨床段階においても密な連携を取っています。結局、提携先ごとに提携の範囲を踏まえたコミュニケーションを取ることになります。
Q9: 社内の雰囲気はどうか?
A9: 内心は残念に思うメンバーもいると思いますが、特に雰囲気の変化はありません。ファイザー社のプロジェクトは当社の手を離れて久しいため、実際の業務には影響が全くないことが大きいと思います。社員一同、より目の前のプロジェクトに向き合い、その価値を高めていくことに集中していきます。
Q10: 田村会長は本件について何かコメントしているか?
A10: 外部向けではありませんが、「当社が世界的なリーディングバイオ企業になるタイミングがやや遅れる可能性はあるが、より厳しい状況を生き抜くことで、中長期では強く団結したチームが事業をより飛躍させると確信している。偉大な企業を築くのに、簡単な道はない。」とコメントしています。
2023年6月27日火曜日
ファイザー社の発表について
- 薬物相互作用試験の薬物動態データとトランスアミナーゼ(AST/ALT:肝臓の検査値)の上昇が中止の要因。どの程度の上昇だったかなどの詳細は非開示
- 一方で、Lotiglipron投与者の中で、肝臓関連の症状や副作用が出た方、肝不全になった方、治療が必要となった方などは、いずれもいなかった
- 当社は、これまでに似た状況にあった他のプログラム/パートナーと同様、今後の開発の可能性検討を含めた、あらゆる協議を行っていく予定
- Lotiglipronに関する一連の試験データは、今後、学会あるいは論文を通じて公表される見込み
- Lotiglipronは当社のStaR技術を活用し、ファイザー社が生み出した化合物
2023年6月16日金曜日
カンファレンスでの発表
13日に発表があり、目新しい情報は多くありませんでしたが、引き続き順調な開発進捗が見て取れる内容でした。当社との提携から生まれたLotiglipron(GLP-1作動薬/PF-07081532)については、既に予定より早めに投与が完了していましたが(参考)、年末までにデータが分かることがファイザー社のコメントでも再確認されました。尚、以下に出てくるDanuglipronはファイザー社が元々開発していた、当社との提携とは関係のないGLP-1作動薬ですが、1日1回投与でよい競合他社の経口薬やLotiglipronと違い、1日2回投与する必要があります。
【主なコメント】
- Lotiglipronについては今年の年末まで、Danuglipronは来年の早い段階にデータが分かると期待している("lotiglipron, we hope to have data by the end of this year and then danuglipron by early next year")
- Danuglipronが一日2回投与なのに対し、Lotiglipronは一日1回投与なのが最も大きな違い(”So the main differences, at a very high level, danuglipron is given twice a day, lotiglipron is given once a day.”)
- (現在のフェーズ2b試験では)月ベースでの用量の段階的増加(タイトレーション)を行っており、Phase3試験に進むのに適切な適切な投与量・投与スケジュールを見極める("now are looking at monthly titration and ultimately to pick the right dosing schedule to move forward to the Phase 3s")
- (GLP-1作動薬は)全体で900億ドルの市場だと予想しているが、より大きいと予想するアナリストもいる。市場調査からは、注射より経口が好まれている("we did put out there that it was $90 billion market, and even some analysts since then have gone even higher ~(中略)~ We do know from market research, for example, that many people would prefer an oral versus an injectable.")
なお、今回は用量の段階的増加(タイトレーション)についても、比較的多くコメントがありました。詳細は省きますが、これはGLP-1作動薬では避けられない副作用(吐き気)を抑えるためのものです。Lotiglipronのフェーズ1b試験でも、他製品と同等程度の副作用が確認されていましたが、現在のフェーズ2b試験のデザインでこれをどのくらい減らせるかも楽しみですね。
●ニューロクライン社
15日に発表があり、当社からライセンスしているムスカリン作動薬シリーズ全体、特にM4作動薬についてポジティブなコメントが多くありました。M4作動薬は、現在行われているフェーズ2b試験がとても順調に進んでおり、従来の予定(データベース上では来年12月)よりも早く終了するようです。今後の続報を期待しながら待ちたいと思います。
【主なコメント】
- (M4作動薬について)現在のフェーズ2b試験は非常にうまく進んでおり、医療関係者からも非常に高い期待の声が寄せられている("going extremely well in a Phase 2b study that we have ongoing right now ~(中略)~ enthusiasm for this molecule out in the clinical community has been very good")
- そのためこのペースでいけば、来年のより早い時期にデータが判明すると期待している(”So I'm hoping that with if enrollment stays the way that it has been, we're going to be able to pull that data readout sooner next year.”)
- (M4作動薬について)競合であるKaruna社やCerevel社よりも、より特異性が高いといった特徴を持つ("That's different from Cerevel. It's highly specific. That's different from Karuna.")
ニューロクライン社もコメントしている通り、M4作動薬の開発進捗が順調なのは医療関係者からの高い評価が背景にあるようです。これは、試験のスケジュールが早まるだけではなく、将来的な競合環境を考えてもとても心強いことです。何より、実際に患者さまに向き合われているドクターの方に期待頂ける、それだけのサイエンスのバックグラウンドがあるというのは、創薬に携わる者としては何にも代えがたい喜びですね。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!
【開発品表(臨床段階のもの)】 | ||||||||||
パートナー | 開発コード | 作用メカニズム | 対象疾患 | 開発段階 | 試験番号 | 人数 | 開始 | 終了 | ステータス | 主な対象・目的 |
ファイザー社 | PF-07081532 | GLP-1作動薬 | 糖尿病/肥満 | フェーズ1a | NCT04148209 | 22 | 19年11月 | 20年3月 | 完了 | 健常人 |
フェーズ1b | NCT04305587 | 66 | 20年3月 | 21年7月 | 完了 | 患者 | ||||
フェーズ1b | NCT05158244 | 34 | 21年12月 | 22年6月 | 完了 | 患者 | ||||
フェーズ2b | NCT05579977 | 900 | 22年10月 | 23年11月 | 観察中 | 患者 | ||||
フェーズ1 | NCT05478603 | 24 | 22年8月 | 23年5月 | 完了 | その他(肝機能障害) | ||||
フェーズ1 | NCT05510245 | 32 | 22年8月 | 23年10月 | 組入中 | その他(腎機能障害) | ||||
フェーズ1 | NCT05652647 | 6 | 22年12月 | 23年3月 | 完了 | その他(薬物動態) | ||||
フェーズ1 | NCT05671653 | 32 | 23年1月 | 23年11月 | 観察中 | その他(薬物相互作用) | ||||
フェーズ1 | NCT05677867 | 20 | 23年1月 | 23年3月 | 完了 | その他(剤形) | ||||
フェーズ1 | NCT05745701 | 16 | 23年2月 | 23年5月 | 組入中 | その他(薬物相互作用) | ||||
フェーズ1 | NCT05788328 | 24 | 23年3月 | 23年9月 | 組入中 | その他(薬物相互作用) | ||||
PF-07054894 | CCR6拮抗薬 | 炎症性腸疾患 | フェーズ1a | NCT04388878 | 84 | 20年7月 | 22年6月 | 完了 | 健常人 | |
フェーズ1b | NCT05549323 | 27 | 22年11月 | 24年10月 | 組入中 | 患者 | ||||
PF-07258669 | MC4拮抗薬 | 拒食症 | フェーズ1a | NCT04628793 | 29 | 21年3月 | 21年8月 | 完了 | 健常人 | |
フェーズ1a | NCT05113940 | 150 | 21年11月 | 23年8月 | 組入中 | 健常人 | ||||
ニューロクライン社 | NBI-1117568 | M4作動薬 | 統合失調症 | フェーズ1a | NCT03244228 | 120 | 17年8月 | 19年9月 | 完了 | 健常人 |
フェーズ2 | NCT05545111 | 213 | 22年10月 | 24年12月 | 組入中 | 患者 | ||||
フェーズ1 | NCT04935320 | 15 | 21年7月 | 21年10月 | 完了 | その他(剤形) | ||||
フェーズ1 | NCT04849286 | 16 | 18年9月 | 18年12月 | 完了 | その他(薬物動態) | ||||
TemperoBio社 | TMP-301 | mGlu5 NAM | 物質使用障害 | フェーズ1a | NCT03785054 | 71 | 18年11月 | 21年3月 | 完了 | 健常人 |
フェーズ1 | NCT04462263 | 8 | 20年6月 | 21年6月 | 完了 | その他(薬物動態) | ||||
※ブルーが主な臨床試験 | ||||||||||
※Recruiting:組入中、Active, not recruiting:観察中、Completed:完了、として表記 | ||||||||||
※その時点で公的なデータベースに登録されているもののみを記載 |