2021年2月16日火曜日

OX作動薬シリーズがCentessa社に統合

みなさんこんばんは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

先ほど、我々が2019年にMedicxi社(ベンチャーキャピタル)と共同で設立したOrexia/Inexia社(参考12)がCentessa社に統合*され、さらにCentessa社が250百万ドルのシリーズAの資金調達を行ったことをリリースしました。Centessa社は、10社の未上場バイオ企業の魅力的な開発品を統合して誕生した新企業で、我々のオレキシン受容体作動薬シリーズ**(以下、OX作動薬シリーズ)も、その中の一翼を担うことになりますまた、詳細についてはCentessa社のウェブページにも公開されていますので、そちらもご参照下さい。米国東海岸時間と合わせた発表だったため、日本では夜間の開示となってしまって恐縮です。


これらの進展により、Orexia/Inexia社に導出していたOX作動薬シリーズの開発は今後はCentessa社が進めていき、その進捗に応じて当社はマイルストンやロイヤルティ収入をCentessa社から受け取ることになります。尚、今回は新規ライセンスではないため契約一時金などはありませんが、Orexia/Inexia社での開発は化合物獲得に向けて順調に進んでいますので(1参考2)、我々が持っていた株式はこれらを踏まえて、相応の価値のCentessa社の株式に置き換わることになります。


一般的にOX作動薬、特にその中でもOX2作動薬はナルコレプシーや特発性過眠症の治療薬として、近年、製薬業界で注目が高まっている分野です。OX2作動薬のトップランナーは武田薬品のTAK-925(注射、Phase1試験)とTAK-994(経口、Phase2試験)で、武田薬品の今年初めのJ.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンス資料によれば、ビーク売上高のポテンシャルはすべて合わせると約4,000億円~6,000億円、ナルコレプシー1型に絞っても3,0004,000億円とされています(参考/P9)。一方で、武田薬品以外にOX2作動薬の開発を進めている企業はおらず、競争が激しい分野ではありません。


海外のメディアも一斉に報道しています。数が多くて全てはご紹介できませんが、ご参考までに主要なもののリンクを貼っておきます。

https://www.businesswire.com/news/home/20210216005355/en/Centessa-Pharmaceuticals-Launches-with-250-Million-Series-A-Financing-and-Unveils-a-New-Kind-of-Pharmaceutical-RD-Model
https://jp.reuters.com/article/us-health-coronavirus-slaoui-centessa/u-s-operation-warp-speeds-slaoui-joins-newly-formed-drug-developer-as-lead-scientist-idUSKBN2AG16C
https://www.barrons.com/articles/operation-warp-speeds-top-adviser-starts-new-pharmaceutical-company-51613475031
https://finance.yahoo.com/news/centessa-pharmaceuticals-launches-250-million-113000180.html
https://www.generalatlantic.com/media-article/centessa-pharmaceuticals-launches-with-250-million-series-a-financing-and-unveils-a-new-kind-of-pharmaceutical-rd-model/
https://www.chronicle-tribune.com/news/wire/centessa-pharmaceuticals-launches-with-250-million-series-a-financing-and-unveils-a-new-kind-of/article_bf98bb1f-ee4f-59f2-9722-d449c77b72a3.html
https://www.biopharmadive.com/news/centessa-launch-medicxi-saha-slaoui/595097/


以下に、Centessa社の背景などを少し解説させていただきますので、もしもご興味あればご覧いただければと思います。

今後とも、どうぞよろしくお願いします!


*今回はテクニカルな理由でまずOrexia LimitedInexia Limitedを新会社のOrexia Therapeutics Limitedの一社にした後、このOrexia Therapeutics Limited Centessa社に統合しています。そのためリリースにはInexia社の名前があまり出てきておりませんが、旧Inexia社の開発品(経鼻のオレキシン作動薬シリーズ)も含めて、新会社のCentessa社に統合されています。

**オレキシン受容体作動薬シリーズ・・・オレキシン(OX)受容体のサブタイプであるOX1受容体とOX2受容体のそれぞれあるいはOX1/OX2デュアル作動薬について、経口や経鼻薬などの投与経路で開発中の一連の化合物の総称。

----------------------------------------------------------------------------------------------Centessaの詳細)----------------------------------------------------------------------------------------------

今回のCentessa社は、Medicxi社(ベンチャーキャピタル)が主導して、10社のバイオベンチャーを統合し、1社の大きなバイオベンチャーを設立する試みで、業界でもかなり特殊な例になります。これまでブログにも書いてきた通り、通常ベンチャーキャピタルと共同でアセット特化型企業を作る際には、Orexia/Inexia社やTempero Bio社のように開発品ごとに会社を分けるのが一般的です。これは、個別の開発品ごとにGo/No goの意思決定やリスクリターンを切り分けられる、というメリットが大きいためです。

 

一方、各社の開発が進んでより大きな組織が必要となっていく中では、会社を分けて数を増やしたことのデメリットも出てきます。分かりやすいのは管理部門やマネジメント、また各社で必要な諸々の経費が、増やした会社の数だけ必要になることです。これらは会社の成長にしたがって一定以上のコスト負担となりますので、統合することでの効率化のメリットは大きくなります。

 

リリースの通り、今回のCentessa社は10社の各プログラムは、基本的にこれまでと同様に個別の専門性を持つチームが開発を進める一方で、経営陣など共通化できる部分を集約・効率化し、魅力的なベストインクラスまたはファーストインクラスの開発品を取りそろえた、文字通り一桁規模の大きな会社になります。これはつまり、上記の「会社を分けるメリット」と「会社を統合するメリット」の いいとこどりを狙ったものでしょう。

 

とはいえ、全く別の方向を向いており、さらにそれを応援していた別々の株主がいる会社を統合するのは難しく、Centessa社のような例はこれまでありませんでした。今回、Centessa社が実現に至ったのは、統合する10社の多くがMedicxi社の投資先だったこと、またMedicxi社が欧州でも著名なベンチャーキャピタルであり(参考)、この統合を実現する力があったことなど、複数の要因によるものだと思われます。我々のOX作動薬シリーズの開発動向と同時に、Centessa社が今後どのように事業を進展させ、また投資家の皆様から評価されるのかについても、注目していきたいと思います。

2021年2月15日月曜日

2020年本決算後の決算説明会を行いました

みなさんこんばんは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。


本日、2020年本決算後の機関投資家/アナリスト/メディア向けの決算説明会(電話会議)を行いましたので、以下にその概略を報告させていただきます。尚、録音はホームページに公開しておりますので、詳細はそちらをご参考下さい。


今後とも、どうぞよろしくお願いします!

 

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開催日時:2021215日 16:00-17:00
参考資料:決算説明資料決算短信
主な参加者:機関投資家・アナリスト・メディア
     要点のみを記載しています。また内容に応じてQ&Aの統合や順序の入れ替えをしています。


●パイプラインや提携の進展について

Q:再導出を含めたムスカリンプログラムの今後の展開について教えてください
A:返還後に複数の企業とコンタクトしており、現在、一部は秘密保持契約下で絞り込みを行っています

ムスカリンプログラムについては、J.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンスでも多くの企業とコンタクトを行い、大手製薬、大手バイオ企業、ベンチャーキャピタルとの間で、現在、いくつかの秘密保持契約を締結しています。M4作動薬はKaruna社やcerevel社など競合での開発が進んでいることからも、新たな作用メカニズムの統合失調症治療薬として注目されており、我々もムスカリンプログラムに対する投資の約50%M4作動薬に対して行い、残りの50%M1作動薬とM1/M4作動薬に約半々に投資する予定です。認知症に対するM1作動薬も引き続き注目して開発を進めており、疾患修飾薬(進行を遅らせる薬:Disease-modifying drug)の開発状況が明確になっておらず、さらに効果があっても認知症の初期段階と考えられる中で、アリセプトに対して上乗せ効果がある対症療法薬としてのM1作動薬は重要な位置づけとなると考えています。我々はM4作動薬、M1作動薬、M1/M4作動薬を、可能であれば1つのパートナーに導出したいと考えています。


Q:ファイザー社に導出している経口GLP-1作動薬の競争優位性を教えてください
A:現在の開発段階で言えることは少ないものの、製造コスト、用法、一日の投与回数に差があります

既に発売されているリベルサスは経口投与のペプチド製剤であるため、製造コストが比較的高く、吸収性が悪いため空腹時に服用かつ服用後最低30分は飲食できないという特性がありますが、低分子である我々の開発候補品は異なる特性を持つ可能性があります。また、ファイザー社は、我々から導出した以外の経口GLP-1作動薬がPhase2の開発段階にありますが、これらは12回投与の試験が組まれているのに対し、我々の導出した化合物は現時点で11回投与の試験を行っています。


Q:資料P39の第一三共の例を見ると、武田、アッヴィからも2021年に新たなマイルストンが得られると考えてよいですか?
A:個別提携先の進捗予想は申し上げられませんが、創薬提携では中長期的に安定的な収益の成長ドライバーを得たいと考えています

第一三共のケースでは構造解析の完了から1年でリード化合物を獲得していますが、これらの進捗は個別企業による部分が大きく、また提携先がありますので武田やアッヴィにもそれが当てはまるかは明確には申し上げられません。ただ、一般的に武田やアッヴィなどと進めている創薬提携は、複数の開発候補品が基礎研究段階の定期的な進捗(タンパク精製、構造解析、化合物の獲得や最適化、臨床開発など)から、さらに臨床試験に進むことで、安定的な収益の成長ドライバーを得ることを目標にしています。

 

Q:コロナ治療薬についてその後の進捗を教えてください
A:現在、大手製薬企業との提携を目指してプロジェクトを進めています

本プログラムは、元々はコロナウイルス流行に対する当社のESGとしての取り組みとして開始したものですが、現在は大手製薬企業との提携を模索する段階にあります。ベストなパートナーは、大手企業かつ抗ウイルス薬の開発に経験と関心のある企業だと考えています。直近ではワクチン開発が大きな話題となっていますが、変異株への対応も含めた抗ウイルス薬開発には引き続きニーズがあります。

 

Q:今期中、また今後の創薬提携のパートナー数の増加の見込みを教えてください
A:創薬提携も含めて、価値の高い提携を行うパートナー数を増やすため柔軟に取り組んでいきます

我々は常に様々な提携の機会を模索しており、それを通じて収入源を多様化させたいと考えています。直近でも創薬提携に加えて、バイオヘイブン社などとの通常の導出契約、Metrion社などとの戦略的提携、Tempero Bioなどとの共同出資(アセット特化型企業)を行っています。このように、どの開発段階でも提携の可能性があるため、創薬提携に限らず相手のニーズや、我々の付加価値に合わせて様々な提携の仕方を考えています。GPCRはまだまだ未開拓の創薬ターゲットが多く残されており、後述のTIVはこのような未開拓だったり生体内の機能が未解明なGPCRも発掘していくための取り組みです。我々としては、このようなターゲットを発掘し、付加価値を付けて導出し、トップクラスの創薬企業になることを目指しています。


●戦略的成長(特にM&A)について

Q:資料P20の戦略的成長プランについて、現在の進捗状況を教えてください
AMAや導入品候補を絞り込み中です。MAに関しては2021年内の実行を目標に動いています

M&Aについては様々な候補企業を現在検討しており、可能であれば遅くとも2021年内、できれば2021年の中ごろに実行したいと考えています。後期開発品の日本市場への導入に関しても、現在、絞り込みのプロセスの中にあります。一方で、いずれも相手企業がありますので、これらの交渉の進展は相手次第の側面があることもご理解いただければと思います。よい企業は中々、素早くかつ現実的な価格での買収が難しいというジレンマを抱えつつも、最適な選択をしていきます。


QM&Aに伴い、昨年6月に発表した資金調達以上のファイナンスはもうないのでしょうか
A:対象先企業が売上・利益を持つ会社であることも踏まえ、銀行借り入れなどを検討しております

金額に見合った価値がる買収対象であれば、昨年6月に調達させていただいた200億円以上の買収を目指していきたいと考えています。調達によってBSを強化されたこと、対象先企業が売上・利益のある企業であることなどを踏まえ、銀行借り入れなどを検討しております。


Q:買収対象先がどのようなイメージの企業になるのかお聞かせください
A:まずは収益の基盤を安定させる企業の買収を考えており、必要に応じてその後もシナジーをより高める買収戦略を描いていきます

売上高もシナジーも十分な企業を買収できれば申し分ないですが、そのような企業は買収しにくかったり価格が高いケースが多いので、まず今回の買収ではある程度のシナジーがありつつ、売上高50億円以上あって安定的な基盤をつくれる企業の買収を優先に考えています。シナジーが少なければ追加のM&Aなども検討し、世界で本当に輝くことができる大きな創薬エンジンを作り上げていきます。


●業績・業績予想・中長期のプランについて

Q:今回の2020年度決算では、「最近2年間の利益合計が25億円以上」という東証プライム上場の形式基準を満たしていますか?
A:形式基準の利益は税引前利益を指していますので、現状で形式基準は満たしません。

202012月期の決算をもって当期利益では2年間の利益合計は25億円以上になりましたが、東証プライム上場の基準となる税引前利益は約21億円ですので、東証プライム上場の形式基準は現状では満たしていません。ただ、2021年には収益性のある企業の買収を検討していることもあり、また、仮に買収が無かったとしても一定の収益を得られる可能性はあるため、202112月期を基準にしたプライム上場の可能性は十分あると考えています。

 

Q2021年の業績予想は非開示ですが、内訳について確度の高いもの低いものなどの考え方を整理いただけますか
A:ムスカリンプログラムを含めた自社品の導出に加え、既存提携先の開発品の前進やロイヤルティ収入が期待できます

自社開発品について、前述の通りムスカリンプログラムは価値を高めつつ、できるだけ早期の導出、具体的には今後12カ月を目標としています。また、前臨床段階の開発品として、例えばアトピー性皮膚炎を対象とする抗PAR2抗体やH4拮抗薬など、新規導出の候補品が複数あります。一方、提携プログラムの中でのロイヤルティ収入は、ノバルティス社の製品販売に伴うもので概ね予想いただけると考えています。その他、開発段階にある複数の提携プログラムについては、我々からの進捗や売上の予想の開示が難しいですが、勿論前進する可能性があります。これらを総合し、またここ数年の我々の実績を踏まえてご判断いただければと思います。


QP25-26の新たなTIVについて、これまでと異なる点を中心に教えていただけますか
A:これまでの創薬ターゲット探索を、より包括的かつ効率的に行うことを目的とした新たなプロジェクトです

従来、新たな創薬ターゲットとなるGPCRを探索するときには、特許、論文、KOLの意見などを参考に探索してきました。一方でTVItarget ID and validation)では、GPCRで我々が持つ世界最大規模のデータの蓄積を活用しつつ、各分野に特化した企業との提携を行うことで、これら新たな創薬ターゲットの探索をAIや蓄積データによって包括的かつ効率的に行うことを目的としています。我々は、魅力的な創薬ターゲットを次々と提供する大きな創薬エンジンを作りたいと思っており、戦略的提携の一部にもこの枠組みに含まれるものがあります。

2021年2月12日金曜日

2020年本決算を発表しました

みなさんこんにちは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

本日、2020年本決算を発表致しました。詳細な数値は決算短信を、2020年の振り返りや2021年以降の事業戦略の全体像は決算説明資料決算発表動画を参考いただければと思いますが、ここではポイント絞って解説します。

 

●売上高と営業利益について

20年の売上高は88億円となり、19年の売上高97億円から約9%減少しました。19年はアストラゼネカ社からのAZD4635Phase2試験開始のマイルストン(約15億円)や、武田薬品とジェネンテック社との創薬提携の契約一時金(合計:約18億円)など、まとまった売上がありました。20年も多くの提携がありましたが、19年にはやや及びませんでした。尚、売上高の内訳の詳細は、以下の決算説明資料P39をご参考下さい(これらは会計上の売上高で、受領した現金とは異なります。以下の詳細もご参考ください)。 



 

 

 

 

 




一方、20年の営業利益は9.2億円となり、19年の営業利益3.8億円から約140%増加しました。これは主に、新規提携の増加で研究開発支援金(導出後の提携先からの費用の提供)が増えたこと、コロナ流行による費用抑制でコストが圧縮された結果です。また、事業の実態により近い営業キャッシュフローについても、20年は47億円で、19年の34億円から約36%増加しており、キャッシュは順調に回っています。ただ、我々は創薬に注力して将来の大きな果実を目指すバイオ企業で、主要製品が上市する前の現段階ではこのように売上高や利益には毎年上下があり、残念ながら確度のある業績予想を開示することも難しいのが現状です。この点は申し訳なく思いつつも、是非、次項のパイプラインで真価を量っていただければありがたいです。

 

●開発パイプラインについて

開示済みの情報の整理ではありますが、パイプラインの概要を決算説明資料P17に、詳細をP40P41に整理しています。2020年はノバルティス社に導出済みのエナジアの承認、ファイザー社に導出済みのCCR6拮抗薬のPhase1試験開始をはじめ、それ以前の段階のパイプラインでも多くの進展がありました。引き続き自社開発品のライセンス活動を強化し、アッヴィ社から返還されたムスカリン作動薬シリーズ含め、年間2-3件の高価値なライセンス契約あるいは共同投資(アセット特化型企業)を目指して事業を進めます。


- 全体(1枚)



- 詳細(2枚)



 
 









また、これまでアーリーな段階の進捗が見えづらかった導出プロジェクトの創薬提携(ファイザー社、ジェネンテック社、武田薬品工業、アッヴィ社)について、既に武田薬品で2つ、アッヴィで1つ、ターゲットの構造解析が終了していることが、前述の決算説明資料P39の売上高の内訳のから、お分かりいただけると思います残念ながらこれでも全ては開示できていないのですが、進捗について少しでも雰囲気を感じていただければと思います。

 

尚、GLP-1拮抗薬は20年末を期限にパートナー候補企業とオプション契約していましたが、本オプションは行使されませんでした。GLP-1拮抗薬は再び自社開発品として他社との提携を目指します。我々は通常、このように不確実性の高いオプション契約は開示していません。現在もGLP-1拮抗薬以外にオプション契約中の開発品はありますが開示はしておらず、今後も特別な事情が無ければ開示しない予定です。GLP-1拮抗薬は206月の資金調達時に全てのパイプラインでオプション含めた開示が求められた、例外的なケースとご理解いただければと思います。

 

今後とも、どうぞよろしくお願いします!

 

-----------------------------------------------------------------------売上高と実際の現金(キャッシュフロー)との差異の詳細-----------------------------------------------------------------------

会計をご存じの方には釈迦に説法ですが、我々の決算の数字の見方の注意点を少し解説させていただきます。解説がどうしても長くなってしまったので、先に結論だけ書きますと、我々は売上高として計上している以上の金額を、実際には現金として提携先企業から受け取っており、その意味で営業キャッシュフローがより事業の実態に近いです、という話になります。特に、今回の決算説明資料P39では売上高の内訳を書いていますが、このそれぞれの売上高と我々がリリースしている一時金などの金額に、なぜ差があるのかのご説明になります。

 

まず、どんな企業でも損益計算書の「売上高」と企業が受け取った「現金」、あるいは損益計算書の「利益」と企業の実際の「現金の増減」にはズレがあります。これは非常に一般的ですし、ズレるのには企業ごとに多くの理由がありますので、ここでは詳説はしません。我々のケースで「売上高」と受け取った「現金」がズレる原因は、①一括で受け取った現金が売上高としては複数年で計上されるケース、②受け取った現金が会計上は「売上高」に足されるのはなく「費用」から引かれるケース、の大きく2つがあります。

 

①は主に契約の中に何年間かかかる作業(例:長期の動物試験など)が含まれていて、かつ、その作業の対価が契約一時金とは別になっていないケースで、この場合は契約一時金にはその作業が含まれると考えられるため、「現金」としては一括で受け取っていても、「売上高」としては作業の進捗に合わせて複数年で計上される部分が生じます。②は主に契約に研究開発支援金(導出後の提携先からの費用の提供)が含まれている場合で、この場合には我々が提携先のために行った作業の請求(外注費や材料費など)は「現金」で都度受け取りますが、その一定部分は「売上高」にプラスされるのではなく「研究開発費」などのコストから差し引かれます。前述させていただいた通り、これが2020年度のコスト圧縮要因の1つにもなっています。

 

これらは、馴染みの無い方にとって分かりやすいとは言い難いですが、会計上のルールですので致し方のないところです。特に、今回の決算説明資料P39の売上高の内訳でも、206月に「契約一時金と初期マイルストン合計で最大 32 百万米ドル」とリリースしているアッヴィとの創薬提携が、1/10以下の2.5百万ドルとなっています。初期のマイルストン(臨床開始まで)を含めた全体で32百万ドルなので、契約一時金はそれよりは小さいものの、2.5百万ドルは流石に物足りない印象と思いますが、上記のような背景から、勿論我々はそれ以上の金額を現金では受け取っています。

 

その意味で、私の個人的な意見も含みますが、より現金授受の実態が分かりやすい営業キャッシュフローが、我々の事業の実態を把握する上では、営業利益と同等以上に重要ではないかとも思います。今でも、米国のバイオベンチャー(特に製品上市前)のプレゼンでは財務情報は書かれていないか、書かれていてもキャッシュフローと現預金だけ、というケースが多くあります。この背景には、そもそもバイオベンチャーの価値はパイプライン(開発品)に集約されているため決算の重要性が他業種よりは高くない一方で、キャッシュフローと現預金は直近での財務リスクを示すのに必要だ、という考え方があるためです。流石に我々はそのような開示はしていませんが、バイオベンチャーの価値の測り方という意味で、一つのご参考にしていただければと思います。

2021年2月11日木曜日

提携・導出先企業の2020年度決算が出揃いました

みなさんこんばんは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

決算シーズンになりました。我々の本決算(202012月期)は明日2/12(金)に発表予定ですが、本日のアストラゼネカ社の決算で海外の主な提携・導出先の決算・決算説明会資料が出そろいましたので、ご報告させて下さい。尚、ここでご報告するのは、提携・導出先の中でも臨床試験(ヒトでの試験)より先に進んでいるノバルティス社、アストラゼネカ社、ファイザー社の3社とさせていただきます。詳細は以下に記載しますが、3Q時点のブログでも一部をご報告させていただいたアストラゼネカ社の新たなPhase2試験が、これまでのPhase2試験に替わって開始された以外、主な進展はありませんでした。

 

●ノバルティス社(本決算:202012月期)
関連品目:シーブリ(販売中)、ウルティブロ(販売中)、エナジア(販売中)
参考資料:Condensed financial report –Supplementary DataP13)他

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決算関連資料にシーブリとウルティブロを含む売上高が「Ultibro Group」、エナジアを含むEnerzair Groupの売上高が「Other」で開示されています。主な数値は以下の通りです。尚、Ultibro Groupは競合と新型コロナウイルスの影響で売上高がやや減少したこと、Enerzair GroupEU、日本、カナダ、オーストラリア、スイス、韓国で承認され吸入器/スマホアプリと同時に使用されること、また、日本・英国・ドイツを含む7つのマーケットで販売が開始されていることがコメントされました。

                                       20204Q                20194Q                変化率                                         2020年通年              2019年通年              変化率
                                    (百万ドル)         (百万ドル)        (ドル、現地通貨)              (百万ドル)          (百万ドル)         (ドル、現地通貨)
Ultibro Group               160                             162                              -1%-6                                   623                                   630                     -1%-1%
Other                               10                                 6                            +67%+55                                26                                     22                    +18%+17%

 


●アストラゼネカ社(本決算:202012月期)
関連品目:AZD4635/imaradenant(アデノシンA2a拮抗薬/Phase2試験中)
参考資料:Clinical trials appendixP2, P3, P4, P47)他

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AZD4635という開発コードからimaradenantへと名称が変わりました。昨年11月に発表された20203Q決算時点のパイプラインリストから、「Imfinzi + imaradenant(AZD4635) + cabazitaxel」の3剤併用試験が正式に新たなPhase2試験として追加され、これまでのPhase2試験(NCT04089553)のimaradenantの単剤・併用療法がなくなっています。尚、3Q時点のブログでもご報告させていただいた通り、新たなPhase2試験もこれまでと同じ前立腺癌が対象ですので、これまでに発表していない通り、当社は追加のマイルストーンは受領しません。

 


●ファイザー社(本決算:202012月期)
関連品目:PF-07081532GLP-1作動薬/Phase1試験中)、PF-07054894CCR6拮抗薬/Phase1試験中)
参考資料:Pfizer PipelineP6, P8)他

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昨年10月に発表された20203Q決算時点のパイプラインリストから主な進捗なし。PF-070815322型糖尿病と肥満を対象に、PF-07054894は炎症性腸疾患(IBD)を対象に、引き続きPhase1試験を実施中。

 

 

今後とも、どうぞよろしくお願いします!