2021年1月17日日曜日

J.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンスでCFOが登壇しました

みなさんこんにちは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

年末にリリースの通り、先週の11日~14日(米国東部時間)に第39J.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンスが開催され、当社もCFOのクリス・カーギル、CSOのマイルス・コングレブが14日にプレゼン発表しました(資料動画はこちらをご参照下さい)。このカンファレンスはヘルスケア業界で最大の会議の一つで、普段は世界中から製薬・バイオ企業の社長や役員、投資家など大勢が集まるためホテルが取れず、業界では、参加した時に1年後のホテルも予約しないと部屋が無くなると言われるほどです。尚、今年は勿論バーチャルでした。

 

参加者は多くの場合、自社や他社のプレゼン発表のために行くのではなく、他の製薬・バイオ企業とのライセンス交渉(Business Development/以下「BD」)や、企業と投資家との個別のミーティングを目的に参加しています。我々も今回、60件弱のBDのミーティング、10件弱の投資家とのミーティングを行いました。さすがにBDミーティングの内容は書けずに恐縮ですが、投資家とのミーティングでの主なQ&Aや、上記の動画にあるプレゼン発表のQ&Aをまとめて以下に整理します。かなり細かい内容も含まれますが、もしもご興味があればご参考下さい。

 

今後とも、どうぞよろしくお願いします!

 

-------------------------------------------------------------------------------(以下、カンファレンスでの主なQ&Aの概要)-------------------------------------------------------------------------------

QGPCRに対する創薬でのStaR技術の位置づけと、競合企業についてどう考えていますか?
A:以前には複数の競合がいましたが、結果として現在は我々が優位になりました

実際に大手企業がGPCRの構造を解明してSBDDで医薬品を設計しようとした場合、多くの場合は我々とパートナーを組みます。それが近年、我々の創薬提携(ファイザー、武田、ジェネンテック、アッヴィ)が増えている理由です。

 

Q:今後どのくらいの期間、StaR技術の優位性が続くと考えていますか?
A:現在のところ、StaR技術の優位性を脅かしそうなものは登場してきていません

StaR技術で使われているX線結晶構造解析に代わる可能性があるものとして、ここ数年でクライオ電子顕微鏡が出てきました。ただ、SBDDで医薬品を設計しようとした場合、特に創薬が困難なターゲットでは医薬品の結合部分(binding site)の構造を高解像度で得る必要があり、これには解像度の高いX線結晶構造解析が必要になります。勿論、今後3-5年でクライオ電子顕微鏡がどの程度進歩するかには注目しており、我々自身もクライオ電子顕微鏡を使っています。また、直近のCaptor社(TPD)やPharmEnable社(AI創薬)の例の通り、クライオ電子顕微鏡に限らず今後有用になりうる技術については、引き続き取り込んでいきます。

 

Q:直近で開始した戦略的提携(Captor社やPharmEnable社)では、どのくらいの期間でどんな成果を目指しますか?
A:まずは今後1-2年の間で、それぞれ1つのターゲットに絞って最初の化合物獲得などの成果を目指していきます

Captor社との提携ではまずは1つのターゲットに集中して、約2年間でCaptor社のTPD技術が有用かを検証します。GPCRに対してTPDが応用された例はほとんどないので、成功すれば新たな非常に面白いアプローチになりえ、ターゲットの数も拡大していく予定です。PharmEnable社との提携についても、まずは1つのターゲットから始めます。このターゲットは既に我々が複数の構造を解明しているものですが、中枢系に効果を示しうる(BBBを通過しうる)低分子化合物が取ることが非常に難しいタイプのものです。これは今年の年末を目途に、全く新しい化合物を得ることを目指しています。

 

Q:毎年2-3件のライセンスなどを目指すとのことですが、そのための準備は十分でしょうか?
A:多くのパートナー候補先企業と前もってコンタクトし、ライセンスを円滑に進めていきます

我々の戦略として、価値の高い提携につながる前臨床試験(動物試験)から初期臨床試験の段階にある開発品が主にライセンスの対象になります。その際には、ライセンスを行う概ね1-2年前からパートナー候補先とコンタクトを取りはじめるケースが多く、例えば昨年末にGSK社に導出したGPR35作動薬は、約1年間、その件についてGSKのチームとコンタクトしていました。GPR35については今年か来年の臨床試験開始を目指して、開発を進めています。バイオヘイブン社に導出したCGRP拮抗薬についても1年かそれ以上前から、コンタクトをしていました。

 

Q:買収候補先となりえる企業のカテゴリーなどMA戦略について教えていただけますか?
A:企業のカテゴリーは様々な可能性がありますが、重視しているのは我々が継続的にイノベーションを起こしつつ成長していくことです

創薬企業だけではなく、サービス提供企業や既に製品を持つ企業など、様々な可能性があります。重要なのは、一定程度の売上高が既にあって、我々が共同で継続的にイノベーションを起こしつつ成長していくことができる企業ということです。また、買収候補先を考える上では、東京証券取引所が予定している市場構造改革なども考慮しています。

 

Q:ムスカリンプログラム(M1作動薬、M4作動薬、M1/M4作動薬)が返還された理由をどう考えていますか?
A:当初のライセンス先のアラガン社がアッヴィ社に買収され、製品開発の戦略が変わったことが最も大きい理由と考えています

アラガン社がアッヴィ社に買収されてパイプラインが整理された結果、返還されたと考えています。これは、製薬企業の大型買収後にはよく起こります。より具体的には、アッヴィ社はアルツハイマー病治療薬の中でも疾患修飾薬(進行を遅らせる薬:Disease-modifying drug)という種類の薬に注力していますが、我々のムスカリンプログラムは症候改善薬(いわゆる対症療法:Symptomatic drug)という種類の薬ですので、アッヴィ社の開発戦略に合わなかったのでしょう。当初のアラガン社との契約で、仮に開発を先に進めなければ我々に権利を返還する決まりでしたので、それに従って返還になりました。元々、我々が生み出した開発品なので、その特性はとてもよく理解していますし、これが自分たちの手に戻ったことを一同喜んでいます。

 

Q:ムスカリンプログラムについて、今後の再ライセンスなどのスケジュールをどう考えていますか?
A:質の高いプログラムであり、概ね12-18カ月以内には何らかの動きがあると思っています

ムスカリンプログラムは質が高いため、新たなパートナーが見つかること自体は確信していますし、そのようなパートナーを見つけるのに数年かかるということも考えていません。概ね12-18カ月以内には何らかの動きがあると思っています。パートナーとしては、ムスカリンプログラムが対象としている統合失調症や認知症などの開発に、十分な経験がある企業が望ましいと考えています。

 

QM4作動薬(HTL16878)について、適応拡大や長時間作用型の剤形になりうる可能性はありますか?
A:可能性はありますが、M4作動薬は新しいメカニズムの薬なので、今後さらにデータを集めていく必要があります

M4作動薬は非常に新しいメカニズムの薬なので、現時点ではさらに追加の臨床試験などが必要になるというのが正確な答えになります。一方で、M4作動薬は先行するKarXTKaruna社)の臨床試験の結果から、高い有効性と既存薬と比較した副作用低減の可能性が示唆されており、例えば副作用で患者様が飲むのを中止してしまう既存の薬と比べれば、そもそも長時間作用型の製剤を開発するニーズが小さい可能性があるとも考えています。

 

QM4作動薬(HTL16878)について、競合となりうるKarXTKaruna社)やCVL -231cerevel社)に比べてどこが優れていますか?
A:効果と副作用の両面から、HTL16878の方が優れている可能性があります

我々のHTL16878と他社の薬を直接比較したわけではありませんが、Phase1試験のデータ(参考)からはHTL16878の方がKarXTKaruna社)やCVL -231cerevel社)よりも安全性が高い可能性が示唆されています。特に、KarXTM1/M4作動薬のキサノメリンの副作用を、トロスピウム(脳内移行性の低いムスカリン受容体拮抗薬)との合剤にして押さえるメカニズムなので、純粋にM4受容体への選択性を高めたHTL16878と比べると、どうしても副作用のコントロールが難しくなりがちです。一方、CVL -231はポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)と呼ばれるメカニズムで、M4受容体を直接刺激する我々のやり方とは異なり、M4受容体のアセチルコリンに対する感受性を上げて、間接的に刺激に反応しやすくするものです。この場合、患者様の脳内のアセチルコリンの量が減れば減るほど、そもそも刺激するものが無いので、PAMの効果は減弱すると考えられます。

 

Q:経口GLP-1作動薬の競合状況と、PF-07081532(ファイザー社へ導出)のポテンシャルをどう考えていますか?
A:今後の開発次第ですが、経口GLP-1作動薬の中でもPF-07081532が最も優れた製品になることを期待しています

経口GLP-1作動薬は既にノボノルディスク社のリベルサスが発売されており、大きな市場を獲得すると考えられています(Evaluate社予想で2026年に約5,500億円)。ただ、リベルサスは低分子ではなくペプチドなので、製造コストやバイオアベイラビリティ(飲んだ薬のうち吸収されて効果を発揮する割合)の面で低分子の方が有利です。低分子の経口GLP-1作動薬はまだ発売されていませんが、臨床開発中なのはPF-06882961Phase2、ファイザー社オリジナル)とPF-07081532Phase1、我々とファイザー社の戦略的提携から誕生)になります。このうち、今の所、11回の投与で試験が組まれているのは我々のPF-07081532で、PF-0688296112回投与の試験となっています。


Q:アデノシンA2A受容体拮抗薬の競合状況と、AZD4635(アストラゼネカ社へ導出)のポテンシャルをどう考えていますか?
A:がん免疫療法におけるアデノシン受容体の役割がより明確になりつつあり、我々は今後のPhase2試験結果を待っています

免疫チェックポイント阻害剤とアデノシン受容体拮抗薬を併用するアプローチは、世界中で数社が実施しており、アストラゼネカ社に導出したAZD4635はその中でも最も進んだ開発品の1つです。競合の試験進展などからも、アデノシン受容体の役割が明確になりつつあります。AZD4635については現在2つのPhase2試験がアストラゼネカ社によって進行中ですので、我々としては、今はこの結果を待つ段階だと考えています。