2021年2月16日火曜日

OX作動薬シリーズがCentessa社に統合

みなさんこんばんは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

先ほど、我々が2019年にMedicxi社(ベンチャーキャピタル)と共同で設立したOrexia/Inexia社(参考12)がCentessa社に統合*され、さらにCentessa社が250百万ドルのシリーズAの資金調達を行ったことをリリースしました。Centessa社は、10社の未上場バイオ企業の魅力的な開発品を統合して誕生した新企業で、我々のオレキシン受容体作動薬シリーズ**(以下、OX作動薬シリーズ)も、その中の一翼を担うことになりますまた、詳細についてはCentessa社のウェブページにも公開されていますので、そちらもご参照下さい。米国東海岸時間と合わせた発表だったため、日本では夜間の開示となってしまって恐縮です。


これらの進展により、Orexia/Inexia社に導出していたOX作動薬シリーズの開発は今後はCentessa社が進めていき、その進捗に応じて当社はマイルストンやロイヤルティ収入をCentessa社から受け取ることになります。尚、今回は新規ライセンスではないため契約一時金などはありませんが、Orexia/Inexia社での開発は化合物獲得に向けて順調に進んでいますので(1参考2)、我々が持っていた株式はこれらを踏まえて、相応の価値のCentessa社の株式に置き換わることになります。


一般的にOX作動薬、特にその中でもOX2作動薬はナルコレプシーや特発性過眠症の治療薬として、近年、製薬業界で注目が高まっている分野です。OX2作動薬のトップランナーは武田薬品のTAK-925(注射、Phase1試験)とTAK-994(経口、Phase2試験)で、武田薬品の今年初めのJ.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンス資料によれば、ビーク売上高のポテンシャルはすべて合わせると約4,000億円~6,000億円、ナルコレプシー1型に絞っても3,0004,000億円とされています(参考/P9)。一方で、武田薬品以外にOX2作動薬の開発を進めている企業はおらず、競争が激しい分野ではありません。


海外のメディアも一斉に報道しています。数が多くて全てはご紹介できませんが、ご参考までに主要なもののリンクを貼っておきます。

https://www.businesswire.com/news/home/20210216005355/en/Centessa-Pharmaceuticals-Launches-with-250-Million-Series-A-Financing-and-Unveils-a-New-Kind-of-Pharmaceutical-RD-Model
https://jp.reuters.com/article/us-health-coronavirus-slaoui-centessa/u-s-operation-warp-speeds-slaoui-joins-newly-formed-drug-developer-as-lead-scientist-idUSKBN2AG16C
https://www.barrons.com/articles/operation-warp-speeds-top-adviser-starts-new-pharmaceutical-company-51613475031
https://finance.yahoo.com/news/centessa-pharmaceuticals-launches-250-million-113000180.html
https://www.generalatlantic.com/media-article/centessa-pharmaceuticals-launches-with-250-million-series-a-financing-and-unveils-a-new-kind-of-pharmaceutical-rd-model/
https://www.chronicle-tribune.com/news/wire/centessa-pharmaceuticals-launches-with-250-million-series-a-financing-and-unveils-a-new-kind-of/article_bf98bb1f-ee4f-59f2-9722-d449c77b72a3.html
https://www.biopharmadive.com/news/centessa-launch-medicxi-saha-slaoui/595097/


以下に、Centessa社の背景などを少し解説させていただきますので、もしもご興味あればご覧いただければと思います。

今後とも、どうぞよろしくお願いします!


*今回はテクニカルな理由でまずOrexia LimitedInexia Limitedを新会社のOrexia Therapeutics Limitedの一社にした後、このOrexia Therapeutics Limited Centessa社に統合しています。そのためリリースにはInexia社の名前があまり出てきておりませんが、旧Inexia社の開発品(経鼻のオレキシン作動薬シリーズ)も含めて、新会社のCentessa社に統合されています。

**オレキシン受容体作動薬シリーズ・・・オレキシン(OX)受容体のサブタイプであるOX1受容体とOX2受容体のそれぞれあるいはOX1/OX2デュアル作動薬について、経口や経鼻薬などの投与経路で開発中の一連の化合物の総称。

----------------------------------------------------------------------------------------------Centessaの詳細)----------------------------------------------------------------------------------------------

今回のCentessa社は、Medicxi社(ベンチャーキャピタル)が主導して、10社のバイオベンチャーを統合し、1社の大きなバイオベンチャーを設立する試みで、業界でもかなり特殊な例になります。これまでブログにも書いてきた通り、通常ベンチャーキャピタルと共同でアセット特化型企業を作る際には、Orexia/Inexia社やTempero Bio社のように開発品ごとに会社を分けるのが一般的です。これは、個別の開発品ごとにGo/No goの意思決定やリスクリターンを切り分けられる、というメリットが大きいためです。

 

一方、各社の開発が進んでより大きな組織が必要となっていく中では、会社を分けて数を増やしたことのデメリットも出てきます。分かりやすいのは管理部門やマネジメント、また各社で必要な諸々の経費が、増やした会社の数だけ必要になることです。これらは会社の成長にしたがって一定以上のコスト負担となりますので、統合することでの効率化のメリットは大きくなります。

 

リリースの通り、今回のCentessa社は10社の各プログラムは、基本的にこれまでと同様に個別の専門性を持つチームが開発を進める一方で、経営陣など共通化できる部分を集約・効率化し、魅力的なベストインクラスまたはファーストインクラスの開発品を取りそろえた、文字通り一桁規模の大きな会社になります。これはつまり、上記の「会社を分けるメリット」と「会社を統合するメリット」の いいとこどりを狙ったものでしょう。

 

とはいえ、全く別の方向を向いており、さらにそれを応援していた別々の株主がいる会社を統合するのは難しく、Centessa社のような例はこれまでありませんでした。今回、Centessa社が実現に至ったのは、統合する10社の多くがMedicxi社の投資先だったこと、またMedicxi社が欧州でも著名なベンチャーキャピタルであり(参考)、この統合を実現する力があったことなど、複数の要因によるものだと思われます。我々のOX作動薬シリーズの開発動向と同時に、Centessa社が今後どのように事業を進展させ、また投資家の皆様から評価されるのかについても、注目していきたいと思います。