2020年12月1日火曜日

CGRP拮抗薬を米バイオヘイブン社に導出しました

みなさんこんにちは。

IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

本日リリースの通り、前臨床試験段階にあるHTL0022562CGRP受容体拮抗薬)を米国バイオヘイブン社に導出しました。我々は契約一時金として10百万ドルを受領し、今後は一定の研究開発資金と、さらに開発が進めば総額マイルストン370百万ドルと段階的ロイヤリティを受け取る可能性があります。尚、契約一時金は現金と株式で受け取りますが、その合計10百万ドル全額が4Qの売上高として計上されます。また、HTL0022562は以前発表の通り臨床試験準備がほぼ整った開発品ですので(参考)、早いタイミングでのPhase1試験開始を期待しています。


今回の発表で、上期決算説明会資料(参考)のP16に書かせていただいた今期の目標残り2つのうち最後の1つ、「⑤より価値の高い提携のために、初期の臨床開発段階にある自社プログラムから対象を絞って進捗」を達成できました(もう一つの⑥はTemperoBio社への導出で達成/参考)。ただ、我々は常に様々なパートナーとの間で導出や協業の検討を進めていますので、期初目標とした項目の達成に必ずしもとらわれず、引き続き事業を進めていく所存です。


さて、ここからは今回の発表で少し分かりにくい、バイオヘイブン社について②TEVA社からの返還の経緯と再導出ついて、の2点を解説させていただきたいと思います。


① バイオヘイブン社について

今回の導出先のバイオヘイブン社(NYSEBHVN)は初めて聞いた方も多いとは思いますが、2013年に設立され2017年にNY証券取引所に上場した、米国では比較的名前の知られたバイオ企業です。上場以来株価も堅調に推移しており、本ブログ投稿時点での時価総額は約5,500億円になっています。日本で同じくらいの時価総額の製薬企業ですと、大日本住友製薬、大正製薬、日本新薬などが該当します。

実はこのバイオヘイブン社の主力製品の一つが、今回、我々が導出したHTL0022562と同じメカニズムである「低分子のCGRP受容体拮抗薬」になります。バイオヘイブン社はこの低分子のCGRP受容体拮抗薬を片頭痛の予防や治療を目指して2つ同時に開発しており、一つは既に発売中(rimegepant:経口)、もう一つはPhase3試験中(vazegepant:点鼻/経口)です(参考:Biohaven3Q決算資料)。片頭痛治療薬の市場規模はややイメージが湧きにくいかもしれませんが、ある市場予想レポートではここ数年のCGRP受容体をターゲットとした新薬の登場に伴い、2019年には約2,300百万ドルだった市場規模が、2026年に約9,500百万ドルに成長すると予想されています。

2026年の片頭痛治療薬売上高Top10の予想には、アッヴィ社、イーライリリー社、アムジェン社、テバ社などの大手製薬の名前も連なっていますが、No1の売上高と予想されているのはバイオヘイブン社のrimegepantになります。バイオヘイブン社は大手製薬企業ではありませんが、CGRP受容体拮抗薬に関してはトッププレーヤーなのです。

このようなバイオヘイブン社がなぜ我々のHTL0022562を導入したのかについて、残念ながら直接コメントはできないのですが、本リリース内のバイオヘイブン社CEOVlad Coric氏の「・・・CGRPを介する片頭痛以外の疾患についても可能性を探るよう努めています。(参考」や、過去パートナーだったテバ社(詳細は後述)の「この新薬候補は非常に興味深い特性を備えています。この分子が持ついくつかの特徴はこのクラスがもつ特徴とは別のものと認識しており・・・(参考」を参考いただければと思います。

また、バイオヘイブン社は直近でもCGRP受容体拮抗薬を片頭痛以外の治療に広げ始めており(乾癬/参考)、加えてCGRP受容体は一般的に、片頭痛以外でも神経痛や変形性関節症への応用が検討されてきたターゲットになります。

 

② TEVA社からの返還の経緯と再導出ついて

ご存じの方も多いかと思いますが、実は今回バイオヘイブン社に導出したHTL0022562を含むCGRP受容体拮抗薬は、2015年にイスラエルの大手製薬企業テバ社(主力は後発品)に一度導出され、その後、2018年に権利が当社に返還された経緯があります。詳細は我々の以下のリリースをご参照下さい。

 

201511月(参考) テバ社に契約一時金10百万ドル、総額マイルストン400百万ドルで導出

20175 参考) 前臨床試験の進展に伴い、5百万ドルのマイルストンをテバ社から受領

20183 参考) テバ社のポートフォリオ見直しの結果、全ての権利が我々に返還

 

このような大手からの権利の返還とその後の再導出は、製薬業界では珍しいことではありません。我々だけでみても、今回のHTL0022562の他に、現在はアストラゼネカ社に導出されてPhase2試験が進んでいるAZD4635HTL1071)は、2011年にシャイアー社に一度導出され2014年に当社に返還されたものです(参考)。また、Heptares社の買収前なので個別に開示はされていませんが、大手に導出後に返還され再導出したケースは当社だけでみても他にもあります。

大手製薬企業から返還されたと聞くと、その開発品にはもうダメだという第一印象を受けると思いますが、実際には大手製薬企業は開発品自体の中身ではなく、疾患領域の変更、社内の他の開発品との競合、研究開発予算の減少、M&Aなどに伴うポートフォリオの整理、など様々な内部事情で開発を止め、ベンチャー企業に権利を返還することがあります。このように大手の内部事情で返還された場合には開発品の価値自体は下がっていませんので、今回のように以前と同程度の経済条件で、新たなパートナーに再導出が可能になります。2018年の返還時にはきっとご心配をおかけしたことと思いますが、製薬業界ではよくあることだとご理解いただければありがたいです。

 

今後とも、どうぞよろしくお願いします!

 

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202012月期の進捗(主に今期収入と関連するものを主に抜粋)】ブルーがアップデート

(発表日)                                 (内容)                                                                 (今期PLの売上げと関連する部分)
625 参考/2Q           アッヴィとの新規創薬提携                                複数年で受領する契約一時金と初期マイルストン合計:最大 32 百万ドル
629 参考/2Q           エナジアが日本で承認を取得                           マイルストン:1.25百万ドル
77   参考/3Q           エナジアが欧州で承認を取得                           マイルストン:5百万ドル
928 参考/3Q           ファイザー社が臨床試験を開始                      マイルストン:5百万ドル
112 参考/4Q           HTL0014242Tempero社に導出                        契約一時金:非開示
12月1 参考/4Q           HTL0022562をバイオヘイブン社に導出         契約一時金:10百万ドル