2021年2月12日金曜日

2020年本決算を発表しました

みなさんこんにちは。
IR&コーポレートストラテジー部長の野村です。

 

本日、2020年本決算を発表致しました。詳細な数値は決算短信を、2020年の振り返りや2021年以降の事業戦略の全体像は決算説明資料決算発表動画を参考いただければと思いますが、ここではポイント絞って解説します。

 

●売上高と営業利益について

20年の売上高は88億円となり、19年の売上高97億円から約9%減少しました。19年はアストラゼネカ社からのAZD4635Phase2試験開始のマイルストン(約15億円)や、武田薬品とジェネンテック社との創薬提携の契約一時金(合計:約18億円)など、まとまった売上がありました。20年も多くの提携がありましたが、19年にはやや及びませんでした。尚、売上高の内訳の詳細は、以下の決算説明資料P39をご参考下さい(これらは会計上の売上高で、受領した現金とは異なります。以下の詳細もご参考ください)。 



 

 

 

 

 




一方、20年の営業利益は9.2億円となり、19年の営業利益3.8億円から約140%増加しました。これは主に、新規提携の増加で研究開発支援金(導出後の提携先からの費用の提供)が増えたこと、コロナ流行による費用抑制でコストが圧縮された結果です。また、事業の実態により近い営業キャッシュフローについても、20年は47億円で、19年の34億円から約36%増加しており、キャッシュは順調に回っています。ただ、我々は創薬に注力して将来の大きな果実を目指すバイオ企業で、主要製品が上市する前の現段階ではこのように売上高や利益には毎年上下があり、残念ながら確度のある業績予想を開示することも難しいのが現状です。この点は申し訳なく思いつつも、是非、次項のパイプラインで真価を量っていただければありがたいです。

 

●開発パイプラインについて

開示済みの情報の整理ではありますが、パイプラインの概要を決算説明資料P17に、詳細をP40P41に整理しています。2020年はノバルティス社に導出済みのエナジアの承認、ファイザー社に導出済みのCCR6拮抗薬のPhase1試験開始をはじめ、それ以前の段階のパイプラインでも多くの進展がありました。引き続き自社開発品のライセンス活動を強化し、アッヴィ社から返還されたムスカリン作動薬シリーズ含め、年間2-3件の高価値なライセンス契約あるいは共同投資(アセット特化型企業)を目指して事業を進めます。


- 全体(1枚)



- 詳細(2枚)



 
 









また、これまでアーリーな段階の進捗が見えづらかった導出プロジェクトの創薬提携(ファイザー社、ジェネンテック社、武田薬品工業、アッヴィ社)について、既に武田薬品で2つ、アッヴィで1つ、ターゲットの構造解析が終了していることが、前述の決算説明資料P39の売上高の内訳のから、お分かりいただけると思います残念ながらこれでも全ては開示できていないのですが、進捗について少しでも雰囲気を感じていただければと思います。

 

尚、GLP-1拮抗薬は20年末を期限にパートナー候補企業とオプション契約していましたが、本オプションは行使されませんでした。GLP-1拮抗薬は再び自社開発品として他社との提携を目指します。我々は通常、このように不確実性の高いオプション契約は開示していません。現在もGLP-1拮抗薬以外にオプション契約中の開発品はありますが開示はしておらず、今後も特別な事情が無ければ開示しない予定です。GLP-1拮抗薬は206月の資金調達時に全てのパイプラインでオプション含めた開示が求められた、例外的なケースとご理解いただければと思います。

 

今後とも、どうぞよろしくお願いします!

 

-----------------------------------------------------------------------売上高と実際の現金(キャッシュフロー)との差異の詳細-----------------------------------------------------------------------

会計をご存じの方には釈迦に説法ですが、我々の決算の数字の見方の注意点を少し解説させていただきます。解説がどうしても長くなってしまったので、先に結論だけ書きますと、我々は売上高として計上している以上の金額を、実際には現金として提携先企業から受け取っており、その意味で営業キャッシュフローがより事業の実態に近いです、という話になります。特に、今回の決算説明資料P39では売上高の内訳を書いていますが、このそれぞれの売上高と我々がリリースしている一時金などの金額に、なぜ差があるのかのご説明になります。

 

まず、どんな企業でも損益計算書の「売上高」と企業が受け取った「現金」、あるいは損益計算書の「利益」と企業の実際の「現金の増減」にはズレがあります。これは非常に一般的ですし、ズレるのには企業ごとに多くの理由がありますので、ここでは詳説はしません。我々のケースで「売上高」と受け取った「現金」がズレる原因は、①一括で受け取った現金が売上高としては複数年で計上されるケース、②受け取った現金が会計上は「売上高」に足されるのはなく「費用」から引かれるケース、の大きく2つがあります。

 

①は主に契約の中に何年間かかかる作業(例:長期の動物試験など)が含まれていて、かつ、その作業の対価が契約一時金とは別になっていないケースで、この場合は契約一時金にはその作業が含まれると考えられるため、「現金」としては一括で受け取っていても、「売上高」としては作業の進捗に合わせて複数年で計上される部分が生じます。②は主に契約に研究開発支援金(導出後の提携先からの費用の提供)が含まれている場合で、この場合には我々が提携先のために行った作業の請求(外注費や材料費など)は「現金」で都度受け取りますが、その一定部分は「売上高」にプラスされるのではなく「研究開発費」などのコストから差し引かれます。前述させていただいた通り、これが2020年度のコスト圧縮要因の1つにもなっています。

 

これらは、馴染みの無い方にとって分かりやすいとは言い難いですが、会計上のルールですので致し方のないところです。特に、今回の決算説明資料P39の売上高の内訳でも、206月に「契約一時金と初期マイルストン合計で最大 32 百万米ドル」とリリースしているアッヴィとの創薬提携が、1/10以下の2.5百万ドルとなっています。初期のマイルストン(臨床開始まで)を含めた全体で32百万ドルなので、契約一時金はそれよりは小さいものの、2.5百万ドルは流石に物足りない印象と思いますが、上記のような背景から、勿論我々はそれ以上の金額を現金では受け取っています。

 

その意味で、私の個人的な意見も含みますが、より現金授受の実態が分かりやすい営業キャッシュフローが、我々の事業の実態を把握する上では、営業利益と同等以上に重要ではないかとも思います。今でも、米国のバイオベンチャー(特に製品上市前)のプレゼンでは財務情報は書かれていないか、書かれていてもキャッシュフローと現預金だけ、というケースが多くあります。この背景には、そもそもバイオベンチャーの価値はパイプライン(開発品)に集約されているため決算の重要性が他業種よりは高くない一方で、キャッシュフローと現預金は直近での財務リスクを示すのに必要だ、という考え方があるためです。流石に我々はそのような開示はしていませんが、バイオベンチャーの価値の測り方という意味で、一つのご参考にしていただければと思います。