2023年7月23日日曜日

イドルシア社の事業取得+説明会Q&A

 みなさんこんばんは。CFOの野村です。


20日に発表の通り、イドルシア社の日本およびAPAC事業(中国を除く)を650億円で取得しました。特に先週はとても忙しい一週間で、ブログの投稿が本日になってしまい申し訳ありませんでした。


・プレスリリース

・説明会資料

・説明会動画


プレスリリース、説明会資料・動画で既に多くが説明されていますので、ここでは詳しくは書きませんが、我々が昨年来目標としてきた「安定した収益源をもたらすM&A」「日本・APAC市場向け後期開発品の導入」「日本事業の確立」を一挙に達成/明確な道筋をつける、革新的な取引だったと自負しています。今後、GPCRに対する世界トップレベルの創薬プラットフォームを持つ英国ヘプタレス社と、卓越した臨床開発・収益力の高い販売力を持つイドルシア・ジャパン/コリアを両輪に、両社間のシナジーも上乗せし、より力強い成長を目指していく所存です。


説明会は直前の案内(15:30発表、17:00説明会開始)にもかかわらず、Web含め385名という非常に多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。当日の口頭での質疑応答は上記のリンクの動画に含まれていますが、時間内にお答えしきれなかったチャットでのご質問や、その前後にテキストでいただいていた合計33件のご質問のうち、重複を整理した以下の26件について以下お答え致します(※カッコ内の数字は同様の主旨の質問の件数です)。


当社は2015年のヘプタレス社買収に引き続き、本買収によってさらなる飛躍を目指していきます。今後とも、どうぞよろしくお願いします!





●買収金額・資金調達について(9

1.       そーせいにとって非常に魅力的な金額の買収に感じるが、650億円の買収価格をどう評価しているか? (2

我々も非常に魅力的な買収だったと考えています。何らかの権利を獲得した9品目のうち、2品目(ピヴラッツとダリドレキサント)の3地域(日本、韓国、台湾)に絞ったピーク時の売上(予想)が350億円以上、EBITDA(予想)が100億円以上であり、仮にこれだけを考えたとしても、魅力的な条件とみています。それに加えてオプション権等を持つ開発品(7品目)、権利を持つ地域(12か国)、ヘプタレス社開発品とのシナジー、本プラットフォームを活用した新規導入品は、全て追加でのアップサイドになります。

 

2.       イドルシアジャパン(IPJ)が魅力的だったのであれば、なぜイドルシア社(スイス)はこのような優良な事業を売却したのか?(2

イドルシア社(スイス)の決定ですので当社からはコメントできません。参考情報として、イドルシア社(スイス)は非常に優れた研究開発機能を持ち、そこへの投資を先行させている企業であること(22年の純損失:約1,325億円22年末の現金残:約746億円)、また、本取引の前後でいくつかの発表をしていますので、そちらをご参考下さい(6/6発表7/21発表)。

 

3.       みずほ銀行からの400億円の長期借入金の金利はどの程度か?また、純資産維持や純損失などのコベナンツはあるのか?(2

正確にはお答えできませんが、金利は極めて魅力的な条件を提示いただきました。コベナンツも同様で、ご指摘のような、通常設定されるようなコベナンツのほとんどは設定されていません。本件については、みずほ銀行そして担当チームの多大なるサポートに感謝しています。

 

4.       300億円の転換社債のプットオプションは247月から行使可能になるが、それまでの間、あるいはその時点での現金残高をどう考えているか?(2

本取引は一時的な手数料などを除き、プラスのキャッシュフローを継続的に生み出すものであり、加えて本取引終了時点でも我々は現預金約420億円を確保していますので、現金残高に不安材料はありません。

 

5.       今回の件に関連して、増資等の資金調達は検討しているのか?

本取引については、既に手元の現金と上記のみずほ銀行からの魅力的な長期借入で資金目途が十分立っていますので、現時点で関連する追加資金調達は考えていません。ヘプタレス社買収の際に行った短期の銀行借入(7カ月間が期限のつなぎ融資/参考)に対し今回の銀行借入は7年間の長期借入れであり、状況が全く異なります。

 

●今後の業績・財務について(7

6.       みずほ銀行への返済プランはどうなっているのか?さらにこれらの返済と開発投資を考慮した場合、通期での黒字は確保できるのか?(2

みずほ銀行への返済はIPJを加えた当社のキャッシュフローから、四半期ごとに行います。IPJ単体の業績は大きく成長中であり、PL(銀行返済なし、償却あり)、キャッシュフロー(銀行返済あり、償却なし)は、現在想定される開発投資を考慮しても、いずれも通期で連結される来期以降はプラスの予定です。今期も方向性に大きな違いはありませんが、連結期間6カ月弱に対して買収に伴う一時費用がフルで加味される可能性があること、また、会計基準のIFRSの適用などがあるため、影響を精査中です。

 

7.       黒字化の達成、配当が可能となる時期等の目安はあるか?

買収関連の一過性の費用を除けば、IPJ単体は今期から継続的に黒字拡大予定であり、ヘプタレス社の開発進展や新規契約に左右される部分もあるものの、グループ全体でも黒字化を目指します。現在、ヘプタレス社は新規提携のため複数社との交渉を進めています。IPJがグループに加わったことで今後はより財務的安定性が増すことが見込まれ、製品やロイヤルティからの収益で安定的な黒字化の目途が立った時点で、配当を検討していく予定です。

 

8.       イドルシアジャパン(IPJ)の総資産と純資産の差額が174億円あるが、これは銀行借入か?

主にイドルシア社(スイス)との間の会社間の負債であり、本取引の完了と同時に消滅予定です。IPJに銀行借入等の負債はありません。

 

9.       ピヴラッツやダリドレキサントの販売に関して、イドルシア社(スイス)へのロイヤルティの支払いは必要か?

個別の契約内容の詳細は開示できませんが、当社としてこれら2品目に対する外部へのロイヤルティ支払いは発生します。一方、これらはいずれも最大でも1桁台と小さいことに加え、そもそも一定の売上を超えた分のみに支払うように設定されているものもあり、全体として大きなものではありません。

 

10.    ピヴラッツ単独で考えた場合、今年の売上予想133億円の中で粗利はどのくらいあるのか?

個別製品の粗利は申し訳ないですが開示できません。一方で、我々は現在の粗利で十分な利益を確保できると考えており、加えて現在のピークEBITDAには織り込まれていないものの、製造元の切り替えなどを含めた将来的なコスト低減努力も検討します。

 

11.    セネリモドやルセラスタットのオプション権について、権利獲得には追加でいくらのオプション料を支払う必要があるか?

個別の契約内容の詳細は開示できませんが、2つのオプション権を合計しても、今回のディール全体の3%に満たない、小さい金額になります。

 

IPJの開発品について(7

12.    ピヴラッツのグローバルのフェーズ3試験結果は主要評価項目が未達だが、国内の売上には影響しないのか?(2

影響は全くないと考えています。日本はグローバルとは独立した2つの国内フェーズ3試験(JapicCTI-163368/JapicCTI-163369)でいずれも主要評価項目を達成しており、加えて直近で、日本の脳卒中専門医の先生方からの高い評価を背景に、脳卒中治療ガイドラインに本年8月掲載されることが新たに決定しました。グローバルのフェーズ3試験は日本の試験とは主要評価項目、投与タイミング(日本:48時間以内/世界:96時間以内)、併用される薬、評価方法のプロトコルなど、数多くの点が異なっています。むしろ、国内試験での成功はIPJの高い開発能力、また日本の医師/医療関係者の皆さまの高いレベルを改めて示すもので、当社として日本での優れたプラットフォームを起点に、APACへの拡大を可能とする重要なドライバーと考えています。

 

13.    LucerastatのグローバルPhase3試験結果は主要評価項目が未達だが、今後どのように開発を進めるのか?

今後、日本の規制当局との協議を進め、最終的にオプション権の行使有無や開発方針を決定する予定です。主要評価項目は未達でしたが、患者さまでのいくつかの改善もみられており、これらに基づき、日本での少数例の追加試験での承認獲得が可能か否かについて今後の協議を進めます。

 

14.    海外のダリドレキサントの売上は低調だが、国内での売上をどのように考えているか?

ダリドレキサントは「デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)」という新しいタイプの不眠症治療薬ですが、このDORA日本の著名な研究者が発見・研究を進めたもので、安全性・有効性は海外に比べて日本で最も高く評価されています。そのような背景からも、既に実績としてDORA市場の70%以上が日本であるため、海外での低調な売上げは参考にならないと考えています。DORAの先行する2つの製品(デエビゴ、ベルソムラ)の売上高は、2022年に国内で570億円であり(/P16)、前年に比べて約28%拡大、今後も拡大が期待されています。ダリドレキサントはこの市場でベストインクラスになることを目指しています。

 

15.    持田製薬はダリドレキサントの販売で塩野義製薬と提携したが、売上・利益の分配はどうなるのか?

個別の契約内容の詳細は開示できませんが、IPJと契約を行っているのは持田製薬であり、塩野義製薬と持田製薬の提携が、当社の経済条件に直接影響を与えることはありません。IPJと持田製薬の契約に関するリリースはこちらをご覧ください(参考)。

 

16.    特に既に販売済みのピヴラッツに関して、今後の国内の薬価改定などの影響はどのように考えているか?

薬価改定についてはルールに従う一方で、過度な影響を受けないよう企業としては適正な努力をしていきます。ピヴラッツは十分な臨床効果を示し、実質的な競合品がほぼ無いことに加え、新薬創出加算も適用されているため、一般的には大きな薬価の下落は見込まれないと考えています。

 

17.    ピヴラッツの市場独占権が2030年(日本)なのはなぜか?特許はもっと長くないのか?

特許期間には様々な要素が含まれますが、現時点では保守的にみて2030年とお示ししました。今後、そもそも現在の特許群のより詳細な分析や、追加の適応症での開発を含めた実質的な特許期間の延長などについても、検討していきます。

 

●今後の開発計画や既存事業とのシナジーについて(3

18.    イドルシア社(スイス)の上市品・開発品のAPACでの権利を取得したこと以外、既存事業等とのシナジーはあるか?また、今後のヘプタレス社の既存開発品の開発や導出に影響はあるのか?

日本・APACでのヘプタレス社の自社品や、インライセンスする外部の魅力的な開発品について、開発・販売を行うシナジーを見込んでいます。ヘプタレス社の開発や導出方針への影響は、基本的にありませんIPJは日本・APACでの十二分に優れた開発・販売プラットフォームを持っています。当社は既に日本・APACを自社で開発・販売する戦略を昨年10月に打ち出しており(参考/P15など)、今回の取引はこの方針を加速させるもので、変更するものではありません。

 

19.    IPJは、ムスカリンシリーズ(M1作動薬、M4作動薬、M1/M4デュアル作動薬)の日本での開発に貢献できるか?

具体的にどの品目を優先して開発していくかは今後の検討次第ですが、当然その可能性はあります。尚、ご指摘の開発品のうち、M1作動薬については当社が日本での権利を持っていますが、残りの2品目については、現時点では全ての権利がニューロクライン社にアウトライセンスされていますので、当社での開発・販売はできません。

 

20.    開発は日本やAPACで市場が大きい薬に特化するのか?

日本やAPACでアンメットニーズがあり、早期に臨床開発ならびに上市が可能で、かつ適正な利益を得られる薬を優先します。当然、市場の大きさも重要になりますが、既存薬があり競争が激しい、期待される薬価がとても低い、大規模な臨床試験ならびに販売網が必須になる薬は、開発ならびに販売提携を検討する場合もあります。

 

●その他(7

21.    Lotiglipronについて新たな情報はあるか?本買収をきっかけに、自社で承認・販売まで行う可能性があるのか?(2

引き続きファイザー社との間で話し合いを進めており、新たな情報はありません。仮に権利が返還された場合においても、糖尿病/肥満症は既に多くの大企業がしのぎを削る疾患領域であり、自社での承認・販売までを行う可能性はありません。

 

22.    買収検討を開始してからかなり期間があったが、当初からインドルシア社(スイス)と話し合いを行っていたのか?

いいえ。話し合いはここ3カ月以内に始まり、より本格化な協議は、イドルシア社(スイス)も発表の通り6月初旬に開始されました(参考)。我々は買収検討を開始して以降、常にこのような機会を最大限探索しており、無数の機会を検討してきました。今回、非常に速いスピードで本取引を進められたことは取引成立の重要なカギでもあり、IPJも含めたチームの素晴らしい働きを誇らしく思います。

 

23.    今回なぜ、日経新聞(WEB)で先に発表されたのか?事前の情報漏洩は無かったのか?

日経新聞の情報源は定かではありませんが、既に当社の発表直前、市場の取引終了後のタイミングであり、重大な情報漏洩等は無かったと考えています。

 

24.    400百万スイスフランはイドルシア社(スイス)に一括で支払われるのか?

はい、既に一括での支払いを終えております。

 

25.    現・代表取締役社長の田中氏は、今後どのようなポジションになるのか?

従来のIPJの代表取締役社長、IPKの代表取締役会長に加え、そーせいグループの執行役にも就任いただきました。

 

26.    今後、大型のM&Aは行わない計画か?

我々はM&Aを成長ドライバーの1つとして積極的に活用してきており、今後も中長期では十分な成長ポテンシャルを持つ企業買収を検討し、買収後の事業成長とシナジーの最大化を図っていきます。一方、650億円の企業の買収を完了させたばかりですので、現時点において短期的にこれを上回る大型のM&Aは検討しておらず、まずはIPJの事業の成長とヘプタレス社とのシナジー創出に、集中したいと考えています。

2023年7月3日月曜日

GPR52作動薬のフェーズ1試験が始まりました

みなさんおはようございます。CFOの野村です。


我々の自社開発品のうちの1つ、GPR52作動薬について、日本時間の週末に最初の被験者への投与が完了し、フェーズ1試験が開始されました(参考)。今年の上期中に予定していた2つの臨床試験開始がやや遅れてしまい申し訳ありませんでしたが、GPR52作動薬の試験がこれで開始され、残るEP4拮抗薬も順調に試験準備が進んでいます。是非、今後の発表をお待ちいただければと思います。


GPR52受容体は、統合失調症の各種症状(陽性症状、陰性症状、認知障害)に効果を発揮する新たな創薬ターゲットとして、2014年に武田の研究者が発表を行って以降、注目を集めてきました(参考)。一方で、オーファン受容体(生体内のリガンドが特定されていない受容体。正確な生理機能が未解明)でもあり、これまでに少なくとも武田薬品とベーリンガーの2社が創薬の検討を行ったとみられますが、いずれも基礎段階に留まり、臨床試験まで進んだのは今回の我々のGPR52作動薬(HTL0048149)が初めてになります。チーム一同、進捗を喜ぶと同時に、今後の開発進展に大いに期待しています。


また、今回の臨床試験の開始は、昨年以降、戦略的に加速させている自社開発での初めての臨床試験の開始となりました。GPR52作動薬も含め、自社開発の主な目標は、初期の臨床試験(フェーズ1b/2a)を自社で行うことで、より高い経済条件で他社へのライセンスを行うことです。また、そのライセンスの際には、基本的に日本・APACの権利は自社で保持し、これらの地域では自社販売までを行うことで、さらに大きなアップサイドを狙っていきます。これは、2021年にニューロクライン社にムスカリン作動薬を導出した際に、M1作動薬(対象疾患:認知症)の日本の権利を保持したのと同じ考え方です。


統合失調症治療薬は、現在、多くの製品が世界中にありますが、残念なことにそのメカニズムは全てドパミン/セロトニンの機能調整に限られており、効果が無い患者さま、また錐体外路症状などの副作用で治療の継続が難しい患者さまが多くいらっしゃいます。我々がニューロクライン社にライセンスし、現在フェーズ2試験が進行中のM4作動薬もそうですが、新たな作用メカニズムの薬が患者様の助けになるよう、今後も全力で開発を進めていく所存です。


今後とも、どうぞよろしくお願いします!